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第146話

(佐倉side) 俺が中村にぬいぐるみをあげたら、秋哉が悔しそうにしていた。 これを挽回しようと秋哉は今必死にクレーンゲームに立ち向かっている。 本当、可愛いやつ。 そう思うと笑えてきた。 「何ニヤニヤしてんの?」 戻ってきた翠が呆れたように言う。 「いや、ちょっとな」 「会長と中村くんは?」 翠と一緒にいた朱春が二人を探しながら聞いてくる。 「クレーンゲームに夢中」 そう言ってクレーンゲームのコーナーを指差す。 二人の姿を見つけた翠と朱春の顔がほころぶ。 「あはは、二人とも楽しそう」 そう言って翠が笑う。 「こうやって見るとやっぱりあの二人目立つよね」 そう言う朱春に、俺ももう一度二人を見る。 あの二人もこうやって見ると普通の高校生なんだよな。 秋哉も生徒会に入ってきた時は、家が金持ちで、世間知らずで、クソ生意気なやつだったけど、今は大分丸くなってきてる。 中村も、秋哉に話を聞いてからは注意して見るようにしてた。 確かに少し運が悪かったり、トラブルを引き起こしたりしてはいたけど、どれも些細なものだ。 そんなに気にするほどでもなかったけど、中村がああなったのは周りのせいなんだよな。 その中村も少しづつ変わってきてる。 ちょっと秋哉に執着してる部分があるのは気になるけど。 そう思いながら、俺は二人を眺めていた。 「………お前らさ、限度ってものがあるだろ?」 秋哉と中村がクレーンゲームをやり始めてから20分くらい。 二人はゲームセンターのスタッフに貰った大きな袋2つと、それに入りきらなかったぬいぐるみをいくつか手に抱えて戻ってきた。 「すごーい、一杯取ったね」 そう言って翠が何を取ってきたのかと袋の中を確認してる。 「こんなにどうするんですか?」 と朱春がぬいぐるみの行く末を心配していた。 秋哉もだけど、中村も結構取ってきてるな。 ちょっと前までクレーンゲームをやったことなかった奴が少しコツを教えてやっただけでこれか。中村もかなり器用だな。 そう思って中村を見ると、中村の手には俺があげた猫のぬいぐるみの他にもう1つ違う猫のぬいぐるみが抱えられていた。 多分、秋哉があげたんだろうな。 そう思うと少し微笑ましかった。

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