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第148話
今まで人数が必要なスポーツはやったことがなかった。
先輩たちにバスケをやろうって言われたときも、正直不安だった。
ルールは知っていても、出来る自信がなかった。
それでも秋哉や先輩たちが大丈夫と言ってくれて、やってみようと思った。
最初はやっぱりどうしていいのか分からなくて戸惑っていると秋哉が指示をくれた。
秋哉の指示通りに動いていると自然と体が動いた。
この勝負は俺と秋哉の圧勝だった。
こういう勝負事はしたことがなかった。
何かをして勝った記憶もない。
「緋桜!!」
急に秋哉に呼ばれたかと思ったら、秋哉は両手を出してくる。
俺はその手の意味が分からなくて、秋哉の顔と手を見る。
そんな俺を見て、秋哉はクスッと笑った。
「緋桜、手出して」
そう言われて俺は秋哉と同じように掌を上にして両手を出した。
その瞬間、秋哉は自分の手を俺の手にパァンと勢いよくぶつけてきた。
俺は驚いて動くことが出来なかった。
しばらくすると手が微かにジーンとしてくる。
俺は秋哉の行動の意味が分からなくて、どうしていいのか分からなくて秋哉の顔を見る。
秋哉の顔を見ると、秋哉はまたクスッと笑う。
「ハイタッチ。勝負に勝ったときはやるもんだよ」
そう言われて、俺はもう一度自分の手を見る。
「……ハイ、タッチ……」
ハイタッチなんて今まで一回もしたことがない。
今までそんな事を出来る相手が居なかったから。
秋哉は俺に色んな『初めて』をくれる。
俺は恥ずかしいような、くすぐったいような、不思議な気持ちになった。
その後、見学していた宮藤先輩に絡まれた。
先輩は『すごい』と連発する。
何がすごいのかよく分からない。
その事を言うと、宮藤先輩に笑われた。
「中村くんはバスケしたことないのに、蒼と朱春に勝っちゃったんだよ。あの二人も運動神経は良い方なのに、本当にすごいって思ったの」
そう言って先輩は笑う。
この人たちは俺の事をことある事に誉める。
いつも何かする度に怒られたり、呆れられたりすることが殆どだった。
そんな俺を何で誉めるのか分からない。
でも、この人たちは不思議だ。
なぜか、この人たちに誉められると不思議な感じになる。
この感じって何なのかな。
しばらく宮藤先輩と話してると佐倉先輩が『休憩したらもう1ゲームするぞ!』と言いながら走ってきた。
さっきまで完全にバテてたのに元気だなと思う。
俺たちは飲み物を買って少し休憩することになった。
「俺、ちょっとトイレ行ってくる」
そう秋哉に告げる。
一人でトイレに向かってると、そこらから人の笑い声が聞こえてくる。
秋哉と色んなゲームをして先輩たちとバスケをして、楽しいと思った。
今日はスムーズに事が進んでる気がする。
これも秋哉のお陰なのかな 。
そう思うと胸の辺りがホワッとした。
ずっと続けばいい、
そう思った。
「随分と楽しそうだな」
後ろから、そう声がした。
秋哉や先輩たちと一緒で楽しくて、俺はすっかり忘れていた。
そんなのは続かないって、
いとも簡単に崩れるって、
そんな事は、俺が一番分かっていた筈なのに………
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