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第153話

(秋哉side) 俺は連絡して先輩たちと合流した。 先輩たちと合流する頃には緋桜も落ち着いていたけど、意識が朦朧としてるみたいで、スタッフに事情を説明して救急車で病院に行くことになった。 対応してくれたスタッフが気を利かせて裏口から通してくれて、騒ぎにはならずにすんだ。 病院につくと軽い検査をして、異常なしと言われて皆ホッと胸を撫で下ろした。 緋桜が眠ってしまったため、先生がしばらく寝かせていいと言ってくれた。 「……で?何があった?」 緋桜を寝かせて病室を出ると、佐倉先輩にそう聞かれる。 俺は分かる範囲で何があったのか話した。 「……斎藤和樹が?」 話を聞いた先輩たちが少し驚いたように言う。 「俺が見つけた時は既に絡まれていて、斎藤和樹が緋桜に何をしたのかまでは分からないけど……」 俺がそう言うと、佐倉先輩は考える素振りをする。 「……もしかしたら、元に戻るかもな」 先輩は緋桜の眠る病室に視線を移しながらそう言った。 「……戻る?」 俺は意味が分からず、首を傾げた。 「中村の接触恐怖症は斎藤が原因だろ?」 そう言われて俺は頷く。 「最近はそれが緩和されてきてたけど、また再発する可能性があるってことだ」 『こればかりは様子を見るしかない』と先輩は言った。 せっかく緋桜が人と向き合うようになったのに。 楽しそうにしてたのに。 なんで緋桜ばかりこんな目に合う? なんで緋桜ばかりがこんな辛い目に合わなきゃならない? 俺は気持ちを押さえる事が出来なくて、思い切り壁に手を打ち付けた。 佐々木に連絡すると、すぐに行くと言っていた。 先輩たちも一緒にいると言ってくれたけど、今日のところは帰ってもらった。 俺は一人で眠る緋桜の顔を眺めていた。 『元に戻るかもな』 先輩の言葉が頭の中を回ってる。 緋桜はまた皆を拒絶するようになるのか? また人と距離を取って、一人で居るようになるのか? いや、大丈夫。俺が一人にさせない。 そう思って、俺は眠る緋桜の頭を撫でた。 しばらくして佐々木が病院に来た。 息を切らせて、余程緋桜の事が心配だったんだろう。 俺は佐々木にも今日あったことを話した。 一通り話終えて病室に戻ると、緋桜が目を覚ましてベッドに座っていた。 「緋桜、大丈夫?」 そう聞くと緋桜は小さく頷く。 緋桜が目を覚ましたことを先生に伝えると、様子を見て大丈夫そうだから帰っていいと言われた。 「緋桜くん、今日は疲れたでしょ?帰ってゆっくり休もう」 病室から出てく先生を見送って戻ってきた佐々木が笑顔で言うと、それにも小さく頷いた。 病院を出て、佐々木が車の後部座席のドアを開ける。 緋桜は素直に車に乗り込んだ。 「あ、そうだ。緋桜くん、これ」 佐々木が緋桜に渡したのは、俺と佐倉先輩があげた猫のぬいぐるみ。 病室に忘れてたからと緋桜に渡した。 緋桜は『ありがとうございます』と小さくお礼を言って受けとると、自分の横に置いた。 その後俺も佐々木に促されて後部座席に乗り込んだ。 車が走ってる間、緋桜はぼんやりと外を眺めていた。 手を握りたい。 そう思ったけど、俺と緋桜の間にはさっき緋桜が置いた二匹の猫のぬいぐるみがある。 ぬいぐるみに意味はないのかもしれない。 緋桜がたまたまそこに置いただけ。 そうだとしても、俺にはその猫のぬいぐるみが俺と緋桜を隔てる壁に思えた。

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