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第161話

大切なものは失ってから気付くってよく聞くけど、まさか俺がそれを経験するとは思わなかった。 俺は失うことしか知らなかったから。 失うぐらいなら、最初から大切なものなんて作らない方がいい。 そうすれば辛い思いなんてしなくていい、そう思ってた。 だから知らなかった。 ちょっと前までは一人が当たり前だったから。 一人になるのがこんなに怖いなんて知らなかった。 好きな人に嫌われるのがこんなに怖いなんて知らなかった。 全部秋哉が教えてくれた。 一人じゃない安心感も、楽しさも、嬉しさも。 好きな人に愛される幸せも、全部秋哉が教えてくれた。 こんなの一度知ってしまったら、もう戻ることなんて出来ない。 俺は今まで一人でどうやって過ごしてた? 今まで一人で何してた? もう思い出せない。 『お前は疫病神だ』 俺は疫病神だ。 『お前なんていらない』 その通りだ。 俺なんて……誰も必要としてない。 ふと下を見ると、地面が目に入る。 ……ここから飛び降りれば楽になるのかな? もう……こんな思いしなくていいのかな? そう思ったら、自然と体が動いて 俺は、フェンスを乗り越えた。

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