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第164話

(秋哉side) 緋桜を引き寄せた反動で二人して後ろに倒れ込む。 「…今、何しようと…してた?」 そう聞いてみたけど、何しようとしてたかなんて安易に想像できた。 想像出来たからこそ、必死だった。 「嫌だ!」 そう言って緋桜は俺から逃げようとする。 俺は緋桜を逃がさないようにしっかりと抱き締めた。 今逃がしたら、緋桜は二度と俺の所には戻ってこない。 そう思った。 心臓がまだバクバクしてる。 呼吸がなかなか落ち着かない。 自分でも思った以上に動揺してる。 「緋桜」 俺は緋桜の体温を確認するように腕に力を入れる。 その瞬間、緋桜が息を飲むのが分かった。 「緋桜」 もう一度名前を呼ぶと、緋桜は耳を塞いで縮こまって微かに震えている。 緋桜は多分、俺に嫌われたと思ってる。 それは俺が『もういい』って言ったから。 多分緋桜にとって『もういい』って言葉は人が自分から離れてくときに言われる言葉。 なんで俺はこの言葉を選んでしまったんだろう。 「…緋桜」 もう一度呼んでみるけど、反応はない。 緋桜はずっと耳を塞いでいる。 ……もう、緋桜に俺の声は届かないのか。

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