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第167話
(秋哉side)
無性に腹が立った。
緋桜の言ってることは分かる。
今までそうやって裏切られてきた。そうやって人が離れていった。
だから『もういい』と言った俺を避けるのも分かる。
"皆"そうだった。
秋哉"も"そうなんだろ。
"皆"とか"も"とか、緋桜の中でそいつらと同じ存在だと思われてることに腹が立った。
「俺は緋桜を嫌いにならないし、緋桜から離れるつもりもない」
そう言うと、緋桜は少し怯えた表情をする。
「確かに俺は緋桜に『もういい』って言った。でもそれは緋桜が苦しそうだったから、俺が緋桜が自分を卑下する姿を見たくなかったから。決して、緋桜が嫌いになったから言ったんじゃない」
緋桜はじっと見る俺から視線を外す。
「……口では何とでも、言える」
緋桜は呟くようにそう言うと、自分の腕をギュッと掴む。
「今は良くても、絶対俺を疎ましく思う。俺を嫌う、俺から離れたいと思う。 ………俺が『疫病神』だから」
自分の腕を掴む緋桜の手が微かに震えている。
今にも泣きそうな顔をする。
何か、自分に言い聞かせてるみたいだ。
緋桜は最近では自分を卑下するようなことはしなくなってた。
でもまたそれが復活してる。
思い当たるのは一つしかなかった。
「………あの時、斎藤に何か言われた?」
そう聞くと、緋桜の体が揺れる。
俺はなんとなく、納得した気がした。
「俺は緋桜にずっと側にいると言った」
そう言うと緋桜は首を振る。
「俺が側にいたら、秋哉を不幸にする」
「俺は緋桜といて不幸になるつもりなんてない」
そう言うと、緋桜はキュっと唇を噛む。
視線を反らして俺を見ようとしない。
「……俺の言葉は信じられない?」
そう言うと緋桜はハッとする。
「違う!秋哉のことは信じてる」
そう言って緋桜は一瞬俺を見るけど、また目を逸らしてしまう。
「……でも……やっぱり、駄目だ」
「……緋桜はいつもそうだ。人の目を気にして、人の言うことを気にして、それを真に受けて、そうだと思い込む」
緋桜を見ると、緋桜はまた泣きそうな表情を見せる。
「……思い込みじゃない、本当の事だから…………俺は人を不幸にする、人を傷付ける」
『だから俺は側に居ない方がいい』と緋桜は言った。
「さっきも言ったけど、俺は緋桜といて不幸になるつもりもないし、緋桜を不幸にするつもりもない」
そう言うと緋桜は驚いた顔をする。
「ねぇ、何で俺の言葉は緋桜に届かない?斎藤の言葉は真に受ける癖に、何で俺の言葉は信じない?」
もう自分でも何を言ってるのか分からない。
でも気持ちが溢れてきて、止めることが出来ない。
「ねぇ、なんで俺には何も言ってくれない?俺じゃ頼りにならない?」
そう言うと、緋桜は悲しそうな顔をして首を振る。
「…違う……俺は……」
「俺を不幸にする?」
ピクッと緋桜の体が揺れる。
「ふざけるなよ!不幸かどうか決めるのは俺だ!俺の気持ちを無視して勝手に決め付けるな!」
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