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第168話

俺は、俺のせいで秋哉が不幸になるのが嫌だった。 そうなるくらいなら、俺が離れた方がいいと思ってた。 『俺の気持ちを無視して勝手に決め付けるな』 秋哉は今にも泣きそうな顔でそう言った。 「……しゅ……」 俺が手を伸ばし掛けると、急にその手を取られて押し倒された。 押し倒された衝撃で背中が痛い。 でもそんな痛みはすぐに消え去った。 俺を見下ろす秋哉の顔に息を飲んだ。 「…ねぇ、どうやったら緋桜に俺の気持ちが届くの?」 悲痛な表情。 「ねぇ、俺はどうしたらいいの?」 秋哉のこんな表情、俺は見たことなかった。 俺の知ってる秋哉は、いつも優しく笑っている。 怒った顔も、慌てた顔も、今までいろんな表情を見てきたけど、最後には必ず笑っていた。 秋哉のこんな顔、俺は知らない。 ……俺がさせてるのか。 秋哉を不幸にしたくない。 俺が離れるのが秋哉の為だと思ってた。 今までそうだったから。 相手の気持ちなんて、秋哉の気持ちなんて考えてなかった。 「……届いてる」 俺は秋哉の頬に手を添える。 「秋哉の気持ち、ちゃんと届いてる」 秋哉はずっと伝えてくれたのに、俺がそれを見ようとしてなかった。 今までがそうだったから、秋哉もそうだと決め付けてた。 間違ってたのは俺の方だ。 そう思うと涙が出た。

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