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第169話
俺たちはフェンスの側から壁際に移動していた。
壁に凭れ掛かって隣同士で並んで座る。
辺りはもう真っ暗で、空には星が出ていた。
ここは邪魔な明かりがないから、星が綺麗に見える。
って言っても、俺自身その事にさっき気付いた。
星を見るなんて、今までしたことがなかったから。
それに星なんて、そんなに綺麗なものとは思えなかった。
それが今はすごく綺麗に見える。
チラッと隣にいる秋哉を見た。
秋哉は俺の肩に頭を置いて、その手はしっかりと俺の手を握っている。
いつもとは逆だと思うと少しくすぐったい感じがする。
でも甘えられてると思うと嬉しかった。
嬉しいと思う反面、今までの事が頭を過った。
「……ごめん」
俺がそう言うと、秋哉は頭だけを動かして俺を見る。
「なにが?」
「…えっと、色々と……」
何て言っていいのか分からなくて少し俯いてしまう。
迷惑掛けて、は何か違う気がする。
心配掛けて……になるのかな?
そんな事を考えていると、秋哉がスッと離れる。
その瞬間、軽くなった肩が少し寂しかった。
秋哉を見ると、秋哉は真っ直ぐ前を見据える。
「緋桜が居なくなったって聞いたとき、心臓が止まりそうだった。ここで緋桜がフェンスを越えようとしてるの見たら、すごく怖かった」
そう言って秋哉は今度は俺を見る。
「緋桜が居なくなると思ったら、すごく怖かった」
それを聞いて俺は少し俯く。
「……俺はあの時、秋哉に嫌われたと思って、辛くて、苦しくて……ここから飛び下りたら楽になるかなって思った」
そう言うと、俺の手を握っていた秋哉の手に少し力が籠る。
俺もそれに応えた。
「……でも、今は助けてくれたこと感謝してる」
そう言って俺は秋哉を見る。
「あのまま死んでたら、秋哉のこと勘違いしたままだった。
秋哉に嫌われたと思ったままだった。だから、ありがとう」
俺がそう言うと、秋哉はフッと笑う。
「俺たちはお互い言葉が足らないみたいだね。これからはもっといろんな事話そうよ」
秋哉は『ね?』と言って笑う。
「……頑張る」
そう答えると秋哉はクスクスと笑った。
「そこは素直に返事してよ」
そう言って秋哉は笑い続けていた。
「ねぇ緋桜、俺は緋桜が好きだよ」
クスクスと笑ってた秋哉が突然真剣な顔をして言う。
「っ!なに、急に?」
「ちゃんと言葉にした方がいいと思って」
そう言って秋哉はフッと笑う。
「俺は緋桜が好きだ。緋桜にずっと側に居てほしい」
正直、本当に俺が秋哉の側に居ていいのかは分からない。
でも、俺も秋哉の側に居たいと思った。
「……うん、俺も秋哉が好きだ」
そう言って俺たちはそっとキスをした。
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