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第179話
(秋哉side)
………なんでこんな事になってるんだろ?
俺は今、上に乗っかる緋桜を見上げていた。
俺と緋桜は朝食を食べて、部屋に戻ってきた。
部屋に戻ってきた途端、俺は緋桜に突き飛ばされた。
突き飛ばされた衝撃でバランスを崩してベッドに倒れ込んだ俺に緋桜が乗っかってきた。
「……あの…緋桜?これはどういう…?」
緋桜がこんなことしてくるのは初めてで、俺も困惑する。
「…ちょっと黙って」
そう言って緋桜は俺の口に手を置く。
……これは、ちょっと様子見た方がいいのか?
そう思って俺は、とりあえず緋桜の好きなようにさせた。
緋桜は俺の唇に触れる程度のキスをすると、首筋から座骨に唇を這わせる。
どれも軽く触れる程度だから、正直くすぐったい。
それに緋桜を見ると、俺を求めてるって言うよりは何か切羽詰まった感じ。
これはさすがに……
「緋桜、ストップ」
そう言って俺は緋桜を引き剥がす。
その瞬間、緋桜は悲しそうな顔をする。
そのままペタンと座り込んでしまう。
俺は上半身を起こして緋桜の様子を伺った。
「…………やっぱり俺じゃ、秋哉を…喜ばせられない」
俯いてるから顔は見えないけど、緋桜は泣いてるような声で言う。
……もしかして、俺を喜ばせたくて?
朝食を食べてる時から何か考え込んでるとは思ってたけど……
「緋桜」
名前を呼んでみるけど無反応だ。
「ねぇ緋桜?俺を喜ばせたかったの?」
そう言うとピクッと反応して、緋桜がゆっくりと顔を上げる。
その目は涙ぐんでて、やっぱり泣いてたんだと思う。
俺は今にも溢れてしまいそうな涙を指で拭った。
「なんで俺を喜ばせようと思ったの?」
そう聞くと、緋桜はまた少し俯く。
「……我慢、させてるから」
緋桜はポツポツと話始める。
「……夜に…その……ヤる流れだったのに…俺寝ちゃって、秋哉に…我慢させて……」
そう言って、緋桜はまた涙ぐむ。
「…だから…何か……秋哉を喜ばせられないかと、思って…」
それを聞いて、俺はため息をついた。
「緋桜、緋桜が無理してるなら俺は嬉しくないよ」
そう言うと、緋桜は俯いてしまう。
どうして、緋桜は自分を犠牲にすることしか知らないんだろう。
「ねぇ緋桜、俺を喜ばせたいならいつも通りでいいんだよ」
そう言うと緋桜は不思議そうな顔で見てくる。
多分、緋桜にはいつも通りがよく分からないんだろう。
緋桜は今まで人を喜ばせたいなんて思うことなかったのかもしれない。
今回は俺を我慢させたことを気にしてる。
まぁ、我慢したことは否定しないけど……
自分を差し出すなんて、やり方は間違ってるけど、俺の為にってとこにかなりくるものがある。
多分、不器用な緋桜なりに一生懸命考えたこと。
俺はそれが嬉しかった。
そう思って、俺は緋桜を抱き締めた。
「ただ、側に居てくれるだけでいい。一緒にいて、いろんな事をして、いろんな話をして、それだけで俺は嬉しいから」
そう言うと、緋桜はポロポロと涙を流す。
なんか、最近の緋桜は涙脆いな。
そう思って、俺は緋桜の目から流れる涙を拭った。
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