192 / 452

第189話

(秋哉side) 次の日、俺と緋桜は約束通り街に出掛けた。 今は街に出るために電車を待っているところだった。 隣にいる緋桜をチラッと見ると、表情が硬い。 朝からそうだったけど、いざ出掛けるってなった時、緋桜の表情は更に硬くなった。 不安からなのか、緊張からなのか、緋桜は肩から掛けたカバンの肩紐をギュッと握りしめていた。 緋桜の様子を見て佐々木が送っていこうかと言っていたけど、俺がそれを断った。 やっぱり送ってもらった方が良かったのかなと思う。 そんな事を考えていると、駅のアナウンスが入った。 内容は計器の不具合で電車の到着が遅れるというもの。 それを聞いた緋桜の顔が更に強張った。 「……ごめん」 そう言って緋桜は俯く。 緋桜の乗ろうとする電車は大抵遅れるか止まるかするらしい。 緋桜はその事も気にしている。 そんな緋桜を見て、俺は思わず笑ってしまった。 急に笑い出す俺を見て、緋桜はきょとんとする。 「…ごめん、なんか懐かしいなと思って」 俺がそう言うと、緋桜は首を傾げた。 「覚えてない?緋桜と初めて出掛けたときもこうやって電車が遅れたなって思ってね。 そう思ったらなんか懐かしくなっちゃった」 そう言うと、緋桜は何か困惑した表情を見せる。 多分『懐かしい』って感覚が分からないんだろうな。 「ねぇ緋桜、昨日も言ったけど、この状況を楽しもうよ」 そう言って俺は、困惑した表情を見せる緋桜に微笑む。 「だから、今日は『ごめん』は禁止ね」

ともだちにシェアしよう!