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第190話

朝から気が重かった。 嫌な訳じゃないけど、やっぱり不安で…… どうしても嫌な事ばかり頭に浮かぶ。 昨日は楽しみだと思えたんだけどな。 そう思うとため息が出た。 家を出るとき、佐々木さんが送っていこうかって言ってたけど、秋哉がそれを断ってた。 秋哉は最初から電車で行くことを決めてたみたいだ。 電車なんて、俺が一緒だと絶対遅れるか止まるかするのに。 電車を待ってると、案の定電車が遅れるってアナウンスが入る。 俺は申し訳ない気持ちになって、秋哉に謝った。 俺が謝ると、秋哉が急に笑い出した。 俺は秋哉が何で笑ってるのか分からなくて反応に困る。 「…ごめん、なんか懐かしいなと思って」 そう言って秋哉は笑う。 懐かしいって何がだろう。 「覚えてない?緋桜と初めて出掛けたときもこうやって電車が遅れたなって思って」 ……秋哉と初めて出掛けたときの事。 覚えてはいるけど、懐かしむような事はなかったはず。 そう思って俺は首を傾げる。 そんな俺を見て秋哉はクスクスと笑う。 「ねぇ緋桜、今は嫌かもしれないけど、時間が経てばこんな事でもいい思い出になる。 だからさ、この状況を楽しもうよ」 こういう状況をどう楽しめばいいのか、俺には分からない。 でも気付いたら、俺は秋哉の言葉に頷いていた。 「だから、今日は『ごめん』は禁止ね」 そう言って秋哉はニッコリと笑った。 結局、電車は15分くらい遅れて来た。 休みってのもあって、電車の中は混んでた。 やっぱり人混みは苦手だと思う。 そう思ってると、秋哉が俺を引っ張って角の方に移動した。 俺を壁際におくと、秋哉は俺をガードするように前に立った。 そういえば、前に出掛けたときもこんな事あったなと思い出す。 あの時はまだ秋哉の事を好きだって気付いてなくて、でも無性にドキドキして、それがなんなのか分からなくて落ち着かなかったっけ。 その事を思い出すと胸がホワッとした。 あ、これが懐かしいって事かな。 俺にも懐かしむような思い出があったことが分かると、なんだか嬉しかった。 「…どうしたの?なんか嬉しそう」 思い出に浸ってると、そう言って秋哉が俺の顔を覗き込む。 「さっき秋哉が言ってた『懐かしい』っての、少し分かった気がする」 「何かあった?」 そう言って秋哉は微笑む。 「前にもこうやって秋哉が人混みからガードしてくれたなって」 「そりゃあの時は緋桜との初めてのデートだったからね。格好いいとこ見せなきゃと思ってたんだよ」 そう言って秋哉はクスクスと笑う。 「……………あれって、デートだったの?」 「俺はそう思ってたよ」 そんな事、考えもしなかった。 「……ごめん、俺……」 「はい駄目!」 急に『駄目』と言われて俺は驚く。 驚いて秋哉を見ると、秋哉はニッコリと笑っていた。 「ごめんは禁止だって言ったよね」

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