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第191話
「緋桜って『ごめん』が何気に口癖だよね」
「…よく分からないけど」
そう言って首を傾げると、秋哉は少し考える素振りをする。
その後俺の顔を見てニヤッと笑った。
「じゃあ、緋桜がごめんって言う度に何か罰ゲームってのはどう?」
そう言って笑う秋哉に、俺は嫌な予感しかなかった。
「…………やだ」
「大丈夫だって!緋桜がごめんって言わなきゃ良いんだよ」
そう言って笑う秋哉は、何かイタズラを考えてる子供のような顔をしてた。
『罰ゲーム何にするか考えとくね』と楽しそうに秋哉は言う。
………一体俺は何をさせられるんだろう。
そんなやり取りをしてると下りる駅に到着した。
「行こう」
そう言って秋哉は俺の手を引く。
この駅では一気に人が下りるから、改札口も混み合う。
でも、さっきほどその人混みが気にならない。
秋哉とのやり取りで緊張が薄れたお陰かな。
不安はまだあるけど、少し気持ちに余裕がある分楽しめるのかなと思った。
でも、その後は『ごめん』って言わないように細心の注意を払ったのは言うまでもない。
昨日雑誌を見て秋哉と行ってみようと言ってた店。
その店の入口には『都合により臨時休業』と書かれた張り紙がしてあった。
先に行った店は人が多過ぎて入れず、その前に行った店は見たかった物が入荷が遅れて在庫がないと言われた。
秋哉はこの状況を楽しもうと言っていたけど、こうも続くと流石に気が滅入ってくる。
やっぱり俺が行きたいなんて思ったから……
「……俺のせい……ごめん」
行きたい店にも行けなくて、見たい物も見れない。
そんなの、いくら秋哉だって嫌になる。
「緋桜のせいじゃないから気にしなくていいよ」
そう思ってたけど、秋哉から返ってきたのは思いの外明るい声。
秋哉を見るとニッコリと満面の笑みを浮かべている。
……何で笑顔?
そう思って考えて俺はハッとした。
俺、今『ごめん』って……
秋哉を見ると、秋哉は携帯に何か打ち込んでいる。
恐る恐る覗き込んでみると、その画面には『ごめん数 3』と打ち込まれていた。
3ってなに!?
俺3回も『ごめん』って言った?
俺はさっきのしか身に覚えがなくて、後の2回はいつ言ったんだろうと考えるけど思い出せない。
無意識に言ってるんだろうか。
「じゃあ次行こうか」
携帯に回数を打ち終えた秋哉がニッコリと笑ってそう言う。
俺はその時初めて、秋哉の笑顔が怖いと思った。
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