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第193話

「飲み物買ってくるからそこで待ってて」 そう言って秋哉は近くのベンチを指差す。 俺は言われた通り、ベンチに座って秋哉が戻ってくるのを待った。 そのベンチは丁度日影になってて、心地いい風が吹く。 ……気持ちいい。 そう思って俺は、ゆっくりと目を閉じた。 秋哉がここに来たのは俺のため…なんだろうな。 結局秋哉に気を使わせてしまってる。 ……秋哉は俺と居て、楽しいのかな。 俺は秋哉を楽しませる事が出来てるのかな。 そんな事を考えていると、突然頬に冷たいものが触れた。 「わっ!?」 俺はそれに驚いて思わず声を上げてしまった。 見ると秋哉がクスクスと笑いながら立っていた。 「はい」 秋哉が買ってきた飲み物を差し出す。 「…ぁ…ご…」 『ごめん』、そう言い掛けて思いとどまる。 秋哉も俺が何を言い掛けたのか分かっててコテンと首を傾けた。 「……あり、がと」 そう言って秋哉から飲み物を受け取った。 それを飲んでホッと息を吐く。 やっぱり俺は『ごめん』が口癖になってるみたいだ。 今まで意識してなかったから気付かなかったけど、多分俺は無意識に何度も謝ってるんだ。 「止めようか」 突然秋哉がそう言う。 「え?」 「ごめんって言ったら罰ゲームっての」 そう言う秋哉に、俺は『なんで?』と思って首を傾げる。 そんな俺を見て秋哉はクスッと笑った。 「緋桜気付いてないでしょ。俺が『罰ゲーム』って言い出してから、それを気にして口数が減ってるんだよ」 そう言われて考えてみる。 確かに『ごめん』って言わないようにしてたけど、そんなに口数減ってたかな。 「それに緋桜は俺を気にし過ぎ」 それは本当に意味が分からない。 「緋桜のことだから俺がつまらないとか、俺を楽しませなきゃとか思ってるでしょ?」 そう言われて俺は言葉に詰まる。 「さっきまでの緋桜、顔が死んでたよ?」 そう言って秋哉はクスクスと笑う。 そんなにひどい顔してたかな? そう思って俺は自分の頬をグイグイと押してみる。 それでもやっぱり自分では分からない。 「緋桜を連れ回してるのは俺の我が儘。緋桜が俺を気にしてくれるのは嬉しいけど、それで緋桜が何かを我慢することはない。俺は、緋桜とこうしてるだけで楽しいから」 そう言って秋哉はニコッと笑った。

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