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第197話
(秋哉side)
用を終えて店内に戻ると、緋桜の姿が見当たらなかった。
緋桜の姿を探してキョロキョロしてると、スタッフの人が『お連れ様はあちらに』と外を示す。
見ると、緋桜が隅っこの方で膝を抱えて踞っていた。
気分でも悪くなったのかと心配したけど、スタッフの話ではどうやら違うらしくて俺はホッと息を吐いた。
俺はスタッフの人に挨拶をして緋桜の所に向かった。
緋桜に近付くと、緋桜はそのままの体制でピクッと体だけ揺れる。
「こんなとこでなにしてんの?」
そう声を掛けると、緋桜はバッと顔を上げる。
その顔が一瞬、嬉しそうにしてるように見えた。
でもその次には、いつもの表情に戻って目を逸らす。
「…もう、用はすんだのか?」
そう言いながら、緋桜は立ち上がる。
「うん、もう終わったよ」
俺がそう言うと、緋桜は俺の服の裾をキュッと掴む。
「……なら、もう帰りたい」
緋桜は俯き気味にそう呟く。
あぁこれは、寂しい思いさせちゃったかな。
「うん、もう帰ろう」
俺がそう言うと、緋桜はホッとしたような顔をした。
「電車乗れる?」
そう聞くと、緋桜の顔が一瞬曇る。
その後、小さく頷いた。
本当、嫌なら嫌って言えばいいのに。
そう思って苦笑が漏れる。
「佐々木呼ぶから待ってて」
そう言って緋桜の頭に手を置くと、緋桜は一瞬驚いた顔をして、また小さく頷いた。
俺たちは駅前まで移動して佐々木が来るのを待った。
その間、緋桜は何故か俺にくっついていた。
くっついていると言っても触れるか触れないかの距離だけど、いつもよりは距離が近い。
それに緋桜はずっと俺の服の裾を掴んだままだった。
そんな緋桜をチラッと見る。
大丈夫だと思ったけど、一人にしたのは失敗だったかな。
そう思って俺は、服の裾を掴んでいた緋桜の手を握った。
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