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第202話

(秋哉side) 目を開けると、隣に寝てた筈の緋桜が居ない。 どこに行ったのかと思って体を起こすと、ベッドの足元に座ってる緋桜を見つけた。 「緋桜?」 座り込んだまま動かない緋桜を覗き込んでみると、その目からはポロポロと涙を流していた。 どうしたのかと思ったけど、緋桜の手元を見て理解した。 「緋桜」 声を掛ける緋桜はゆっくりとこっちを見る。 「……秋哉…これ……」 緋桜はそう言って左手の薬指につけられた指輪を触り続ける。 緋桜の目からは、そのせいで拭われることのない涙が次から次に流れている。 俺はその涙を親指の腹で拭った。 「うん、これは緋桜が俺のだって証。俺はこっちでも良かったんだけど」 そう言って俺は緋桜の首筋に触れる。 「でも、これは時間が経つと消えてしまうから。消えない何かを緋桜に贈りたかった」 『嫌だった?』と聞くと、緋桜は首を振る。 「……嫌な、わけ…ないじゃないか……」 そう言って緋桜は泣きながら俺の胸に顔を埋める。 「……嬉しい」 聞こえるか聞こえないかくらいの声で、緋桜はそう呟く。 泣かせたかった訳じゃないけど、泣いて喜んでくれる緋桜に俺は愛しさが込み上げてきて、緋桜を抱き締めた。 緋桜はあの後、しばらく泣き続けた。 「落ち着いた?」 ようやく泣き止んだ緋桜にそう聞くと、緋桜は小さく頷く。 「学校行ける?」 そう聞くと、緋桜はまた小さく頷いた。 緋桜は行けると言うけど、泣き腫らした目で学校に行くのもどうかと思う。 まぁ泣かした俺が言うのもなんだけど…… 「とりあえず目、冷やそうか」 そう言うと緋桜は頷く。 学校に行くまでまだ時間があるから、その間冷やせば何とか腫れは引くかな。 そう思って俺たちはキッチンに向かった。 「佐々木、タオル濡らして」 キッチンでそう声を掛けると、朝食の準備をしている佐々木が顔を出す。 「タオルなんて何に……って緋桜くん、どうしたの!?」 佐々木は緋桜の顔を見てギョッとする。 「あれ渡したら泣かれた」 俺がそう言うと事情を知ってる佐々木は、緋桜の手元を見て『あぁ』と納得した。 その後佐々木は濡らしたタオルと氷を氷嚢に入れて持ってきた。 「どうぞ」 そう言って佐々木は緋桜にタオルと氷嚢を渡す。 「…すいません」 緋桜も少し恥ずかしがりつつ、それを受け取った。 緋桜は受け取ったタオルを目元に当てて小さくため息をついた。 学校に行くまでに少しは腫れが引くと良いんだけどな。 俺はそう思って、チラッと時計を見た。

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