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第205話

夜、お風呂から上がると俺はベランダに出た。 学校ほどではないけど、ここからも星が綺麗に見える。 前までは星を見るなんてしなかったけど、星が綺麗なものだって気付いてからはたまに見ていた。 星を眺めながら、俺は左手の薬指に触れた。 そこには秋哉から貰った指輪がつけられてる。 学校では指にするのはまずいってことで、秋哉がチェーンに通してペンダントにしてくれた。 本当は指にしてたかったけど、先生とかに見つかって没収されたら堪ったものじゃない。 ペンダントでも見つければ没収されるけど、制服に隠れてたお陰で殆ど気付かれることはなかった。 先輩たちには気付かれたけど…… これを貰った時、涙が出るくらいすごく嬉しかった。 でも嬉しかった反面、すごく怖かった。 すごく嬉しくて、すごく幸せで。 俺がこんな幸せでいいんだろうかと思った。 秋哉が居て、佐々木さんが居て、先輩たちが居て。 最近では『嬉しい』『楽しい』『幸せ』そんなのばかりだ。 でもそう思う度に、またすぐに無くしてしまうんじゃないかと思った。 今度無くしたら、今の俺じゃ多分堪えられない。 そう思うと、怖くて仕方ない。 「緋桜、こんなとこで何してんの?」 そんな事を考えていると、秋哉がヒョコっと顔を出す。 「…星見てた」 俺がそう言うと、秋哉もベランダに出て空を見上げた。 「あぁ、今日は星がよく見えるね」 そう言う秋哉に釣られて俺ももう一度空を見上げた。 「……何か不安?」 「え?」 星を見てたら秋哉が唐突に言う。 俺はそれに驚いた。 そんな俺を見て秋哉はクスッと笑う。 「見てたら分かるよ」 そう言って秋哉は笑った。 『何か不安?』 秋哉にそう聞かれて俺は俯いた。 「……秋哉にこれ貰って、すごく嬉しかった」 そう言って俺は左手の指輪に触れる。 「…でも、それがすごく怖い」 「怖い?どうして?」 そう言う秋哉を見ると、秋哉は真っ直ぐ俺を見る。 俺はそんな秋哉から目を逸らせた。 「……今まで俺には何もなかった。でも今は『楽しい』とか『嬉しい』とか『幸せ』とか、そんな感情ばかり感じてる。それが嫌とかじゃないけど、それを無くした時の事を考えると、怖くて仕方ない」 こんなこと言うと秋哉は怒るかもしれない。 そう思って俺は秋哉を見る。 秋哉は小さくため息をついた。 「緋桜は今まで無くすことばかりを考えてきた。その考えをすぐに直すのは無理だろうね。俺もそれをすぐに直せとは言わない」 そう言って秋哉は優しく微笑むと、そっと俺の頬に触れた。 「でも、これだけは覚えておいて。俺も、佐々木も、もちろん先輩たちだって、緋桜のことを解ってるつもりだ。解ってて緋桜の側にいる。俺たちは緋桜から離れることはないし、何があっても緋桜の味方だから」 『忘れないで』と秋哉は言う。 秋哉の言葉に涙が出た。 そんな俺を見て秋哉はクスッと笑う。 「せっかく引いたのにまた腫れちゃうよ?」 そう言って秋哉は俺の涙を拭う。 「ねぇ緋桜、緋桜はもっと幸せになっていいんだよ。俺は緋桜に今まで出来なかった分、もっと楽しいことや嬉しいことを経験してほしい」 俺はそれに答えることは出来なかった。 「焦ることないよ。ゆっくり行こう」 『ね?』と言って秋哉は笑った。 「さぁ湯冷めしちゃうから、もう中に入ろ?」 そう言って手を伸ばす秋哉に、俺は小さく頷いてその手を取った。

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