211 / 452

第208話

「緋桜、緊張してる?」 車に乗り込んだ俺を秋哉がそう言って覗き込む。 「……大丈夫」 「本当に?」 そう聞かれて、俺は一瞬言葉に詰まる。 「……でも、決めたから」 そう言う俺に、秋哉は苦笑に近い笑顔を見せた。 「分かった、でも無理はしないでね」 そう言って秋哉は俺の頭に手を置いた。 秋哉の指示で車が動き出す。 そんな些細な事でさえ、俺の心臓はいつもより激しく脈打つ。 目的地に近付くにつれて窓の外が見覚えのある風景に変わる。 心臓がうるさい、呼吸が苦しい。 それでも、俺は自分に『大丈夫』と言い聞かせて拳を握った。 ギュッと拳を握っていると、その拳に秋哉が手を置いた。 俺は驚いて、体が揺れる。 秋哉を見ると、秋哉は困ったように笑った。 その後秋哉は何か言うわけでもなく、ただずっと俺の手を握っててくれた。 俺にはそれが秋哉にも『大丈夫』と言われてるみたいで、少し気持ちが軽くなった。

ともだちにシェアしよう!