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第209話

(秋哉side) 朝から緋桜の表情は強張っていた。 本人は大丈夫と言うけど、本当に大丈夫なのか心配になるレベルだ。 「本当に連れていっても大丈夫なんですか?」 佐々木も緋桜の様子が気になってか、そう聞いてくる。 そう言われると、正直迷うとこでもある。 あれだけ避けてた場所に行くっていうのは精神的にもかなり辛いはずだ。 「でも、緋桜が自分で行くって決めたことだから…」 「…そうですね」 そう言って佐々木はフッと笑った。 あの日、緋桜がお願いがあると言ってきた。 それは冴木拓真のお墓に連れてってほしいというもの。 冴木拓真は緋桜の友人で、事故で亡くなっている。 緋桜はその事故を自分のせいだと思って、ずっと自分を責めてきた。 それもあって、緋桜は冴木拓真のお墓に行くことを避けていた。 以前俺が無理に連れていったことがあるけど、その時はお墓の場所まで行けなかった。 それは緋桜の中でまだ整理が出来てなかったから。 その時緋桜は『気持ちの整理がついたら連れてってほしい』と言っていた。 それを聞いた時、俺は時間が掛かるだろうと思っていた。 もしかしたら、それは一生無いかもしれないとさえ思った。 だから今回、緋桜から『行きたい』と言い出した時は俺も驚いた。 目的地が近付くにつれて、緋桜の顔がどんどん強張っていくのが分かった。 手もギュッと握り締めている。 俺は少しでも緋桜の気持ちが落ち着けばと思って緋桜の手を握った。 その瞬間、緋桜の体がビクッと揺れる。 最近では殆ど無かった反応だ。 それだけ気持ちに余裕がないってことか。 本当は無理に行くことはないと言いたい。 でもこれは緋桜の問題だから、俺が踏み込んでいい領域じゃない。 緋桜が自分で決断しなきゃいけない。 だから俺は『行きたい』と言った緋桜の願いを叶えてやることしか出来ない。 でも、側には居るから。 そう思って俺は、緋桜の手を握り続けた。

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