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第210話
(秋哉side)
「着きましたよ」
佐々木がそう言うと、緋桜の体がピクッと揺れる。
俺の手を握る緋桜の力が強くなった。
緋桜はそのまま動かなかった。
行くと決心したものの、まだ何処かで迷いがあるんだろう。
俺と佐々木は何も言わず、緋桜が動くのを待った。
どれくらい経ったのか、緋桜がギュッと目を瞑る。
その後深く深呼吸をして目を開けた。
「…行ける?」
そう聞くと、緋桜は小さく頷いた。
「俺はここで待ってますよ」
車から降りた俺たちに佐々木がそう言う。
俺と緋桜は、二人で拓真のお墓に向かった。
ここは洋風の霊園で入り口に大きめの門がある。
そこを抜けると墓地があって、洋型の墓標が並んでいる。
広さはそこまで広くないけど、お墓を探すのには少し苦労しそうな広さだ。
駐車場を抜けて門の前に立つ。
そこで緋桜の足が止まった。
少し待ってみたけど緋桜が動く様子がなくて、俺は緋桜の後ろに回ると、ほんの少しだけ背中を押した。
以前も駐車場までは来れた。
多分、この門が境界線。
この門さえ越えられれば、今の緋桜なら行ける。
それは何か言葉を掛けるより、ただ背中を押してあげるだけでいい。
そう思った。
緋桜が俺を見る。
俺はそれに微笑んで返した。
そうすると、緋桜はまた門を見つめる。
そこで緋桜はもう一度深呼吸をすると、唇にグッと力を入れて、一歩踏み出した。
俺は門をくぐる緋桜を後ろから見守る。
緋桜がくぐった事を確認すると、俺も後に続いた。
門をくぐった所で緋桜がまた立ち止まってしまう。
どうしたのかと思って緋桜の顔を見ると、さっきまでの不安そうな顔とは違って、驚いたような不思議そうな顔をしていた。
緋桜はくぐってきた門を見て、もう一度前を見る。
あの門は緋桜にとっての境界線。
あそこから中には入れないと、緋桜が勝手に思ってた。
それが以外にあっさりと通れてしまったことにちょっと戸惑ってるんだろう。
俺は少し戸惑ってる緋桜の背中に手を添える。
「行こう」
そう言うと、緋桜は小さく頷く。
「場所は分かる?」
そう聞くと、緋桜はまた小さく頷いた。
緋桜はゆっくりと歩き出す。
俺はそのすぐ後ろを着いていった。
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