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第213話
(秋哉side)
緋桜は迷わず拓真のお墓に向かって歩く。
途中で少し考える素振りを見せたものの、緋桜が足を止めることは無かった。
もう緋桜は大丈夫、そう思った。
拓真のお墓の前に着くと、緋桜は目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
目を開けてお墓を見た瞬間、緋桜の目からポロポロと涙が溢れた。
緋桜の表情を見ると、悲しいのか嬉しいのかよく分からない表情をしてる。
多分緋桜の中で色々な感情が溢れてきてるんだろう。
しばらくすると緋桜は、その場にしゃがみ込んで拓真のお墓に手を伸ばす。
緋桜は墓石に刻まれた拓真の名前をゆっくりとなぞった。
拓真が緋桜に取ってかけがえのない存在なのは分かってる。
緋桜に取って、唯一の友人。
緋桜のことを理解して、ずっと支えてきた存在。
決して緋桜の中から消える事の無い存在。
そんな事は分かってる。
俺もその存在を認めてる。
でも、そこには確実に俺の入り込めない空間があって、俺はそれが少し悔しかった。
「……や……秋哉!」
そんな事を考えてるといきなり名前を呼ばれて思わず体が揺れる。
「……どうかした?」
そう言って緋桜が心配そうに覗き込んできた。
「…ぁ…いや、大丈夫」
俺はそう言って小さく首を振って笑い返した。
緋桜はどうやら落ち着いたみたいで、涙の痕は残ってるけど、もう泣き止んでいた。
俺は緋桜の涙の痕をなぞる。
馬鹿だな、今さら拓真に嫉妬するなんて……
そう思って、俺は自分自身に苦笑した。
俺たちは拓真のお墓をキレイにすると、持ってきた花を飾る。
緋桜情報で拓真が好きだったという向日葵。
時期じゃないから入手に手間取ったけど、出来れば好きな花を飾りたいと結構探した。
本当見つかって良かったと思う。
向日葵の黄色が映えて綺麗だ。
チラッと緋桜を見ると、緋桜はその向日葵を眺めている。
「……また、来れたらいいな」
緋桜はそう言って、微かに笑った。
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