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第222話
(秋哉side)
『話さなきゃいけないことがある』
そう言ったけど、緋桜は俯いて黙ったままだった。
「…緋桜、無理に話さなくてもいいよ?」
そう言うと、緋桜は俯いたまま小さく首を振る。
「……大丈夫、秋哉に……聞いてほしい」
そう言って緋桜は俺の服の裾を掴む手に力を入れた。
「…俺の実家が火事になったってのは、知ってるよね?」
しばらく黙ってた緋桜がポツポツと話始める。
「うん」
「その原因が不審火だったってことも知ってるよね?」
「うん、でもそれはまだよく分かってないって」
俺がそう聞くと、緋桜は頷く。
「………あれは、不審火じゃなくて……放火、だから……」
『放火』
そう聞いて、俺は驚いた。
「ちょ、ちょっと待って!?放火って、緋桜は犯人知ってるの!?」
そう聞くと、緋桜は頷いた。
放火ってのもそうだし、緋桜がその犯人を知ってるって言うのにも驚いた。
突拍子もない話で、俺でも流石にパニックになる。
「…えと、犯人知ってるっていうか……目星がついてるって言った方が正しいかも……」
「ちょっと待って!」
俺は頭の整理が出来なくて、緋桜に一度ストップを掛けた。
つまり、緋桜の実家が火事になったのは不審火ってことになってるけど、本当は放火で緋桜はその犯人に目星がついてると……
整理してみると意外に単純な話だったんだけど、それでも幾つかの疑問が残る。
まずは…
「何で犯人が分かってて、それを言わなかったの?」
緋桜はこの火事のせいで家族とギクシャクしてる。
放火だって言ってれば、緋桜への対応も変わってたかもしれない。
「……俺のせい、だから……」
「ちょっと待って、意味が分からない。どうして緋桜のせいになるの!?」
疑問を緋桜にぶつけると、緋桜も返答に困ってる。
「……ごめん、ちょっと焦りすぎた」
そう言うと緋桜も首を振る。
俺はとりあえず気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。
「ごめん、続けて」
そう言うと緋桜は、躊躇しながらもまた話始めた。
「…犯人は多分、俺が傷付けた人……だと思う」
『傷付けた人』正確には緋桜のせいで傷付いたと思ってる奴。
逆恨み…か。
「緋桜はどうして放火だって知ってたの?
消防の調査の結果でも不審火で終わってる筈だけど」
前に佐々木に調べて貰ったときは、『不審火』だけだった。
まぁ不審火ってことは放火の疑いもあるってことなんだけど、いくら調べてもそれ以上は出てこなかった。
緋桜は俺の質問に対して少し口ごもる。
チラッと俺を見たかと思ったら、また目を逸らした。
「……その場に、居合わせた」
その言葉に俺はまた驚いた。
「……でも俺、動けなくて……」
そう言って緋桜は俯いてしまう。
……体質故なのか何なのか。
でも中学生だった緋桜が、その現場に居合わせて動けないのは仕方ない。
今までその事を言わなかったのは、その人を傷付けてしまった自分せいだから…か。
「……その事を俺に話したって事は、それが間違ってるって思ってるって事だよね?」
そう言うと、緋桜は小さく頷いた。
「…その時は、俺のせいだから……俺が悪いって思ってた。でも、今は違う……あの時の、俺の判断は間違ってたって…分かったから」
そう言って緋桜は真っ直ぐに俺を見る。
もうそれで十分だった。
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