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第229話

家の前まで来たけど、心の準備が出来なくてインターフォンが押せなかった。 時間が経つにつれて秋哉の呆れたような声が聞こえる。 早くしないとと俺も思うけど、そう思えば思うほど気持ちが焦る。 そう思ってると、秋哉が『俺が押そうか?』と言ってインターフォンに手を伸ばした。 俺は咄嗟にそれを止めてしまった。 これを押したら母さんが出てくる。 そう思うとやっぱり怖かった。 そんなやり取りをしてると、いきなりドアが開いた。 誰か出てきた、そう思うより先に体が動いて、気付いたら俺は物陰に隠れていた。 誰が出てきたなんて見なくても分かった。 秋哉と母さんのやり取りを影から聞く。 母さんは俺の友人だと言う秋哉を信じてないみたいだ。 それは無理もないと思う。 俺が家に友達を連れてきたことなんて殆どない。 秋哉は一向に出ようとしない俺に『おいで』と声を掛けてくる。 俺はそれに対して首を振った。 秋哉には悪いけど、やっぱり会うのは無理だ。 そう思ってると、いきなり手を引かれた。 突然腕を引かれて少しバランスを崩す。 それを秋哉が支えてくれた。 『大丈夫』と言ういつもと変わらない秋哉の笑顔。 俺はその笑顔でさっきまでの不安が少し和らいだ。 「…緋桜?」 不安が和らいだのも束の間、俺を呼ぶその声に現実に引き戻された。 引っ張り出されたってことは、当然母さんにも俺の事がバレる。 俺は咄嗟に秋哉の後ろに隠れてしまった。 「緋桜!」 母さんがさっきより強く俺を呼ぶ。 ザッと足音が聞こえて近付いて来たのが分かった。 俺はどうしたらいいのか分からなくて、その場から逃げようとした。 「駄目だよ」 どうしたらいいのか分からなくて、訳が分からなくて逃げようとした俺を秋哉が引き止める。 秋哉はそれでも逃げようとする俺の腕を掴んだ。 「っ!やだ、離して」 「離したら逃げるでしょ?」 そう言われて、言葉に詰まる。 「ねぇ緋桜、今逃げたら今までと何も変わらないよ?」 そう言って秋哉は俺の腕を掴む手に力を入れる。 分かってる。 そんな事は分かってる。 でも…… そう思ってると、ふと母さんの顔が目に入る。 久しぶりに見る母さんは、心配そうにこっちを見ていた。

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