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第232話
(秋哉side)
俺は寝てる緋桜を横目に部屋を出た。
向かったのはさっきまで居たリビング。
「ごめんなさいね、こんな時間に」
リビングにはゆかりさんが居て、そう謝ってくる。
「大丈夫ですよ」
そう言って俺が笑うと、ゆかりさんは少し安心した表情を見せた。
こういう所は緋桜にそっくりと思うとちょっと微笑ましい。
俺がここに来た理由は、ゆかりさんに呼ばれたから。
緋桜が寝た後話をしたいから来てほしいと、緋桜には聞こえないように言われた。
ということは、緋桜には聞かれたくない話。
ゆかりさんに『座って』と言われて、俺は椅子に座る。
飲み物を渡されて、俺はお礼を言ってそれを受け取った。
ゆかりさんは俺の反対側に座ると、用意した飲み物を一口飲んで息を吐いた。
「話したいのは緋桜の事なの」
ゆかりさんはそう神妙な面持ちで話始めた。
「まずはあなたと緋桜の関係の事なんだけど……」
俺たちは一応『友人』ってことになってる。
俺もそう言ったし、緋桜も俺の事をそう紹介した。
でも、今までの俺たちの態度で流石に気付くよな。
「付き合ってます」
そう言うと、ゆかりさんは少し驚いた顔をする。
「……それは、本気で?」
「当然ですよ。俺は緋桜が好きだし、緋桜を幸せにしたいと思ってます。半端な覚悟で緋桜と付き合ってるつもりは無いです」
俺がそう言うと、ゆかりさんは大きくため息をついた。
やっぱり息子が男と付き合ってるっていうのは、親としては納得出来ないのか。
「…気持ち悪いですか?」
そう聞くと、ゆかりさんはバッと顔を上げた。
「ごめんなさい、そういうつもりじゃ無かったの」
そう言ってゆかりさんは息を吐く。
「確かに二人の関係に驚きはしたけど、私は緋桜が誰かを好きになったことの方が驚いてるの」
そう言ってゆかりさんは少し寂しそうに笑う。
「……あの子は自分が周りの人を不幸にしてしまうと思ってる。私たちがそんな事はないって言っても、あの子は信じなかった。
あの子は今まで人と関わることをずっと避けてきたの。そんなあの子が人を好きになるなんて思ってもみなかった」
そう話すゆかりさんの言葉に、俺は出会った頃の緋桜を思い出す。
あの頃の緋桜は自分を『疫病神』と言って、他の人と関わろうとしなかった。
「今は違いますよ」
「え?」
「今はぎこちなくではあるけど、他の人と少しづつ話すようになってます」
「……緋桜が?」
「はい。自分からはまだ躊躇する部分はありますけど」
俺はその時の緋桜を思い出して、思わず笑ってしまった。
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