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第236話

「いつでも帰って来なさい」 帰り際、そう言って母さんは俺の頬に触れる。 今までこんな風に送られたことないから少しくすぐったい。 俺は頷くことしか出来なかった。 そんな俺に母さんはクスッと笑って、今度は秋哉に向く。 「秋哉くん、緋桜のことよろしくお願いします」 そう言って母さんは秋哉に頭を下げた。 「任せて下さい」 秋哉がそう言うと母さんはニコッと笑った。 「じゃあ、二人とも気を付けてね」 そう言って母さんは俺と秋哉の肩をポンと叩いた。 車に乗り込んで窓の外を見ると、母さんが手を振る。 俺はそれに返すことが出来なかった。 秋哉と佐々木さんは軽く頭を下げて挨拶すると、車が走り出す。 チラッと見ると、母さんはまだその場で俺たちを見送っていた。 ……手、振り返した方がよかったのかな そう思って、俺は少し後悔した。 「良いお母さんだったね」 しばらくすると、秋哉がそう言う。 「……うん」 俺はずっと母さんたちに嫌われてると思ってた。 でもそうじゃなかった。 母さんたちはずっと俺の事を気にしててくれた。 母さんが父さんが俺に会えなくて悔しがってたって聞いた。 今度は父さんも居るときに帰りたいな。 しばらくすると、ピコンと携帯が鳴った。 見ると母さんからのメールで、 『皆の前では言えなかったけど、秋哉くんも佐々木さんも格好良くて素敵! あ、もちろん緋桜も格好良いわよ!』 と書いてあった。 ………母さんってこんなキャラだったかな? そのすぐ後、またメールが届く。 『秋哉くんが相手ならお母さんも安心。応援してるから頑張って!』 「どうしたの?何か良いことでも書いてあった?」 秋哉にそう聞かれて、俺は首を傾げる。 そんな俺に秋哉はクスッと笑う。 「笑ってるよ」 そう言って秋哉は自分の口元をトントンと指で叩く。 どうやら俺は、気付かない内に笑ってたらしい。 俺は秋哉に母さんからのメールを見せた。 「ははっ!ゆかりさん面白いな」 そう言って秋哉は笑う。 俺もそれに吊られて笑っていた。

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