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第264話

(秋哉side) 先輩に呆れながら緋桜の様子を見ると、緋桜はしきりに観客席を気にしていた。 キョロキョロとして誰かを探してるみたいだ。 「緋桜、誰か探してるの?」 「…母さんたちが来るって」 連絡があったと緋桜は言う。 観客席は来賓の席と生徒たちの親が見られるように多めに席を設けている。 高校で親が見に来るのかって思うけど、意外に見に来る親が多い。 「ゆかりさんの他に誰か来るの?」 『たち』ってことは、ゆかりさん以外にも来るって事だ。 「…父さん」 『父さんも今日休みが取れたから』と緋桜は言う。 「……は?」 父さんって、緋桜のお父さん!? 俺、何も聞いてないんだけど!? 「……緋桜、それ言ってほしかった」 流石に俺でも、緋桜のお父さんに会うのは心の準備がいる。 「え?……ごめん」 俺が少し項垂れると、緋桜は申し訳ないなさそうに謝って『母さんが知らせてると思ってた』と言う。 流石に俺が会わない訳にもいかないしなぁ。 俺は小さくため息をつくと、緋桜の頭に手を置いた。 「いいよ、俺も一緒に探す」 そう言うと、緋桜の表情が少し明るくなった。 俺は先輩たちに少し離れる事を伝えると、緋桜と一緒にゆかりさんたちを探し始めた。 観客席を見て回る。 「緋桜!秋哉くん!」 しばらく観客席を探してると、俺たちを呼ぶ声が聞こえた。 声のする方を見ると、ゆかりさんが手を振ってた。 その後ろにはもう一人、男の人がいた。 緋桜は二人を見ると、嬉しそうな顔をして駆け寄っていった。 緋桜は実家に帰った後、お父さんとも電話で話していた。 それもあってか、お父さんと直接会っても普通に話せていた。 少し離れたとこからその様子を見てると、緋桜のお父さんと目が合った。 俺が軽くお辞儀をすると、お父さんは俺の方に近付いてきた。 「初めまして、緋桜の父で優(すぐる)です。 君が秋哉くんだね、妻から君の話は聞いているよ」 そう言って優さんは手を差し出す。 「あ、初めまして。木崎 秋哉です」 俺も名前を名乗ってその手を取った。 この人が緋桜のお父さん。 前に緋桜に聞いた話では、お父さんは緋桜に感心がなく、一緒にいた記憶があまり無かったらしい。 でも実際はお互いに嫌われてると思ってて、どう接したらいいのか分からなかったらしい。 それが誤解だったって分かった今は、こうして普通に話してる。 って言うよりは今まで出来なかった分、緋桜を甘やかしてる感じかな。 ゆかりさんも何処と無く緋桜に似てると思ってたけど、優さんの方が緋桜に似てる。 緋桜はお父さん似だったんだな。

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