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第268話

(秋哉side) 「そんなにむくれんなって!」 障害物走の準備を終えた佐倉先輩が生徒会席に戻ってきてそう言う。 「お前、絶対喜ぶから」 『な?』と言って先輩はニコッと笑う。 俺はその笑顔に益々苛立ちを覚えた。 そうこうしてる内に競技が始まってしまった。 緋桜は第一走者。 多分これも先輩の手が回ってる。 本当、この人はこの競技にどれだけ力入れてんだ? ここまで徹底的だと、逆に怖い。 そう思って俺はため息をついた。 『さぁ始まりました!本日の目玉競技、障害物走! 数々の障害を乗り越えて一体誰が一番でゴールを抜けるのでしょうか!?』 そう放送から声が流れる。 ………何なんだ、この実況。 そう思ってると、佐倉先輩が隣で笑ってる。 「今年の放送委員は面白いな」 こういった放送は放送委員のアドリブだ。 だから毎年こういったイベントには放送委員の力量が試される。 今年は競技中の実況、一位の生徒へのインタビューが放送委員によって行われていた。 放送委員の放送に気を取られていると、スタートのピストルの音が場内に響く。 それを合図に緋桜たちがスタートした。 緋桜は難なく障害物をクリアしていく。 「…やっぱ中村は運動神経良いな」 その姿を見て先輩がボソッと呟いた。 「生徒会に入ってなかったらまた部活の勧誘を受けるとこだったな」 そう言って先輩は笑う。 「……それは緋桜が嫌がりそうですね」 「まぁ、あの運動神経を持ってて部活やらないってのはちょっと勿体無い気もするけどな」 中村なら良いとこまで行けるんじゃないのかと先輩は言う。 確かにあの運動神経ならどの部活でも通用すると思う。 でも緋桜はそれを望まない。 緋桜は自分が入ることで迷惑を掛けてしまうと思ってるから。 本当はそう思う所も直して欲しいんだけどな。 そんな事を考えていると、突然会場内が沸き上がった。 何だと思って見てみると、俺は信じられない光景を目の当たりにした。

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