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第272話 旅行

これは体育祭の2ヶ月くらい前の話。 「ねぇ緋桜、今度旅行に行こうよ」 部屋で二人でのんびりしていると、秋哉が唐突にそんな事を言い出した。 「………旅行?」 「うん、秋休み使ってさ」 うちの学校には体育祭の後、一週間の秋休みっていうのがある。 そんな休み、聞いたことない。本当、うちの学校は変わってる。 「………旅行って、どこに?」 「まだ決めてない、緋桜と決めようと思って」 秋哉はウキウキとした感じで話す。 それとは逆に、俺の気持ちは少しだけ沈んだ。 旅行は殆どしたことがない。 今までで記憶にある旅行って言ったら、小学校の2泊3日の修学旅行くらいだ。 それも良い思い出では無かった。 修学旅行は6人一班で行動する。 自由行動の時間、どこを回るかも班で話し合って決めた。 この時の俺は自分の体質を分かってはいたものの、初めての旅行が楽しみで体質の事なんて忘れていた。 一日目の自由行動の時、俺が居たせいで電車は遅れ、店はしまってて、班で予定してたコースの半分も回れなかった。 同じ班の人たちは俺の体質を知っていて、その日の内に先生に『班を変えてほしい』と訴えたらしい。 でもそれは受け入れられず、次の日も同じ班で皆渋々回った。 でもやっぱり結果は同じで、流石にキレた班の人たちに『お前のせいだ!お前が居るから全然楽しくない!』と面と向かって言われた。 俺はその時から班で一緒に行動することを止めた。 俺は1人で泊まってたホテルに戻った。 ホテルで待機してた先生に理由を聞かれたから、体調が悪いと言って俺は部屋に閉じ籠った。 最終日は電車の時間まで数ヵ所の名所をバスで回った。 でも俺は、体調が悪いことを理由にバスから降りることはなかった。 中学の時の修学旅行は行かなかった。 でもその時には俺の体質は皆に知れ渡っていて、修学旅行に行かなかった俺を咎める人なんて誰も居なかった。 先生に修学旅行は行かないと伝えると、ただ『そうですか』とだけ返ってきた。 先生たちも俺が一緒に行く事で何かあるんじゃないかと思ってたらしい。 俺が行かないと分かって、内心ホッとしてたんじゃないかと思う。 何を思ったのか秋哉が急に旅行にいこうと言い出したけど、旅行に対してそんな記憶しかない俺は秋哉の提案に素直に頷く事が出来なかった。

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