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第275話
(秋哉side)
旅行の話を出すと、緋桜の表情が曇った気がした。
聞いてみると、小学校の修学旅行で『お前のせいだ!お前が居るから全然楽しくない!』と面と向かって言われたらしい。
そんな事面と向かって言われたら、誰だって人と行動するのが怖くなる。
緋桜の性格だと余計に避けてしまう。
この事を聞いて、本当は二人で行くつもりだったけど、人数が居た方が良いと思った。
旅行は楽しいって教えてあげたかった。
だから先輩たちも誘おうと思った。
でも緋桜はそれを言ったら、見るからにシュンとしてしまった。
俺と二人で行きたいと思っててくれたのかな。
いろいろ話してるとそれが想像出来たのか、緋桜は『楽しそう』と呟いて笑った。
その笑顔を見て俺も嬉しくなる。もっと緋桜の笑顔が見れれば良いんだけどな。
次の日先輩たちに旅行の話をしたら、3人とも即答で『行く』と返ってきた。
そこからは体育祭の事もしなきゃいけないのに、旅行の話で持ちきりだった。
でもまだ行き先が決まってないから、緋桜が無理と言った海外は外して、国内限定でどこに行きたいのか先輩たちに決めてもらうことにした。
「中村は何処がいい?」
佐倉先輩がパンフレットを見ながら緋桜に聞く。
「…え、俺は……」
緋桜も行き先を聞かれて戸惑ってる。
「蒼、その聞き方じゃ中村くん困っちゃうよ?」
宮藤先輩が横から佐倉先輩に注意をする。
「中村くんは何か見たいのとか無いの?」
「……見たいの?」
緋桜は宮藤先輩の質問に真剣に考える。
「建物とか景色とか、何でも良いんだけど」
先輩たちは何とか緋桜の意見を取り入れようとしてくれてる。
緋桜は殆ど旅行の経験がないから、行き先を決めるのは無理だ。
先輩たちにも緋桜の事情は話してあるから、それを考慮しての聞き方だ。
「……海」
何か見たいものを聞かれて考えてた緋桜がボソッと呟く。
「…俺、テレビとかでは見たことあるんですけど、実際には見たこと無くて……」
緋桜はそうポツポツと話始める。
その後先輩たちをチラッと見た。
「……海が見てみたい……です」
緋桜がそう言った瞬間、先輩たちが笑顔になった。
緋桜がこうやって先輩たちに何かをお願いするのは初めてだから、先輩たちも嬉しいみたいだ。
「海ならここがいいよ」
そう日向先輩が一つのパンフレットを佐倉先輩と宮藤先輩に見せる。
「そうだな、ここなら」
「そうね、ここなら今の時期でもいいかも」
と3人集まって話してる。
俺と緋桜はそれがどこなのか分からない。
しばらく3人で話してた先輩たちが俺の方を見てにんまり笑う。
「ここでよろしく!!」
と3人が声を合わせて言ってきた。
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