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第293話

指輪に触れようとすると、そこには有るはずの指輪が無かった。 俺は慌ててパタパタと服を確認する。 どこかに引っ掛かってるんじゃないか、ポケットに入ってるんじゃないか。 そう思って見るけど、指輪は見付からない。 「緋桜!?どうしたの!?」 俺の様子がおかしいことに気付いた秋哉がそう聞いてくるけど、俺に答えてる余裕は無かった。 なんで!?なんで無いの!? もしかして落とした!? そう思って俺は周辺の浜辺の探して見るけど見付からない。 どうして!? どこで無くした? 俺は指輪があったはずの場所をギュッと握る。 そうすると、ふとさっきまで秋哉と朝日を見てた場所が浮かんだ。 もしかしてあそこにあるんじゃ…… そう思ったら俺は居ても立ってもいられなくて、気付いたら走り出してた。 さっきまで居た場所に着くと、俺は汚れるのも気にせず膝をついて指輪を探す。 どこ!? どこにあるの!? どれくらい探してたのか分からない。 必死に指輪を探すけど、見付からない。 なんで!?なんで無いの!? 秋哉に貰ったのに…… 秋哉が俺の傍に居てくれるって証なのに…… なんで無いの…… そう思ったら、ジワッと目に涙が溜まる。 どうしよう…… 無くしたなんて言ったら、秋哉怒るかな…… もう、俺の傍には居てくれないかな。 そう思ったら俺は、その場から動けなかった。 「どうかしましたか?」 浜辺に座り込んでると、誰かに声を掛けられた。 見ると40……いや30代半ばくらいの男の人が立ってた。 その人は俺の顔を見ると、少し驚いた顔をする。 その後その人は俺の前にしゃがむと、俺の目の下をそっと指でなぞった。 「…どうして泣いてるんだい?」 そう言われて、俺は自分が泣いてることに気付いた。 ただ俺にはその涙を拭う気力は無かった。 その人はそんな俺を見てクスッと笑う。 「良かったらなぜ泣いてるのか、聞かせてくれるかい?」 『力になれるかもしれないよ』とその人は言う 。 「……大事な……指輪、無くして……」 何で見ず知らずの人に話してるのか分からない。 でも、何故か自然と話していた。 「指輪?………あっ!」 その人は何か思い出したように、自分のジャケットのポケットをごそごそとし始める。 「もしかしてこれかな?」 そう言ってその人はポケットから出した物を見せる。 「さっきそこで拾ったんだけど、君のかな?」 その人の手には指輪が乗せられていて、俺はその指輪をよく見た。 それは間違いなく俺が秋哉から貰った指輪で、指輪を見た瞬間涙が溢れてきた。 ……見つかった。 俺はゆっくりとその人の手から指輪を受け取る。 「……良かった」 そう言って俺はギュッと指輪を握り締めた。 「……へぇ、そんな顔も出来るんだね」 「え?」 その人が何か呟いた気がしたけど、何を言ったのかは分からなかった。 その人の顔を見ると、その人はニコッと笑う。 「見つかって良かったね」 そう言ってその人は笑った。 さっきこの人が何か言ったような気がしたけど、気のせいだったかな。 「ぁ…ありがとうございます」 そうお礼を言うと、その人は『いやいや』と言う。 その時、遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。 「おっと、呼ばれてるみたいだから私はもう行くよ」 そう言ってその人は呼んでる人の方に向かう。 「あ、待っ………」 その人を呼び止めようとした時、遠くから秋哉の声がした。 秋哉に気を取られて、次に見た時にはその人の姿はなかった。

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