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第294話

(秋哉side) 浜辺を散歩してると、突然緋桜が焦り出した。 服を確認したり、周辺をキョロキョロと見回したりして何かを探してるみたいだった。 どうしたのか聞いても答える余裕がないのか、何かを探す素振りを止めない。 その時の緋桜は今にも泣きそうな顔をしていた。 しばらく様子を見てると、何か思い立ったようにいきなり走り出した。 突然の事で、俺は動くことが出来なくて走っていく緋桜を見送ってしまった。 少ししてハッとした時には緋桜の姿は見えなくて、俺は慌てて緋桜を追い掛けた。 しばらく探して、さっき日の出を見た場所で緋桜の姿を見つけた。 でも緋桜は誰かと何か話してるみたいだった。 その人の顔は見えなかったけど、緋桜が泣いてるように見えた。 俺は名前を呼んで、緋桜に駆け寄った。 「緋桜!」 「……秋哉」 振り向いた緋桜はやっぱり泣いていて、俺はさっき居た奴を探すけどもう既に姿はなかった。 俺は緋桜の涙を指で拭き取る。 「さっき誰かと話してたよね?そいつに何かされた?」 「え!?ち、違う、されてない」 『何かされた?』って言葉の意味を理解した緋桜は、そう言って慌てるように首を振る。 「……違う?じゃあなんで泣いてるの?」 「……あ……えと…」 緋桜の目が泳ぐ。 「……ゆ、指輪……拾ってくれた」 「……指輪?」 そう言う俺に緋桜は指輪を見せてきた。 それは俺が緋桜に『ずっと傍にいる証』として贈った指輪。 緋桜はそれをネックレスにして肌身離さす着けていた。 「……落としたみたいで……さっきの人が…これ、拾ってくれて…」 と緋桜は目を泳がせながら話続ける。 だからさっきはあんなに慌ててたのか。 そんな緋桜を見て、俺はため息をついた。 「緋桜がさっきの人に何かされて泣かされたのかと思った」 俺は緋桜が何かされた訳じゃないと分かってホッとした。 「…ぁ…指輪が見つかったから、安心しちゃって………ごめん」 「何で緋桜が謝るの?」 そう聞くと、緋桜の目がまた泳ぐ。 「ぁ、いや、心配…掛けたから」 「そうだね、緋桜が何も言わずに走ってくから驚いた」 「……ごめん」 シュンとしてしまう緋桜に、俺は思わず笑ってしまった。 「先輩たちも起きてる頃だろうし、そろそろ戻ろうか?」 そう言って手を差し出すと、緋桜はその手を握って頷いた。

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