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第295話
『何かされた?』と聞いてきた時の秋哉は怖かった。
無表情で、何て言うか静かに怒ってる感じ。
だから必死に違うって言った。
すぐに分かって貰えて良かったと思う。
俺が何かされたと思ったままだったら、多分秋哉は意地でもあの人を探し出して何するか分からない。そう思った。
「良かったね、指輪見つかって」
ホテルに戻る途中、秋哉がそう言う。
俺はその言葉に頷いた。
「でも言ってくれれば俺も一緒に探したのに」
そう言って秋哉は少し不貞腐れた顔をする。
「……ごめん、思い付かなかった」
俺がそう言うと、秋哉はますます不貞腐れた顔をする。
「……それ、ちょっと寂しいんだけど」
「……ごめん」
……それに。
俺は少し視線を下に向けた。
「……この指輪が無くなったら、秋哉がもう俺の傍には居てくれないんじゃないかって……思ったから」
そう言うと秋哉が突然立ち止まって、繋いでた手が引かれる。
「……秋哉?」
俺は立ち止まってしまった秋哉の顔を覗き込んだ。
それでも秋哉は俯いて黙ったままで、どうしたのかと心配になる。
そう思ってると、秋哉が突然俺の手を引いて海の方に歩き出した。
「ちょっ、秋哉?」
俺が名前を呼んでも、秋哉は黙ったまま歩く。
手を引かれる俺は、そのまま着いていくしかなかった。
少し歩いて、着いたのは人気の無い岩場。
秋哉はそこで止まって、振り向いたかと思ったら突然抱き締めてきた。
俺は驚いて、動くことが出来なかった。
抱き締められてからどれくらい経ったのか、秋哉がスッと離れる。
目が合うと、秋哉はフッと笑った。
「ごめん、もう少し二人きりで居たかったから」
そう言って秋哉は笑うけど、俺はそんな秋哉がどこか寂しそうに見えた。
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