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第297話
(秋哉side)
緋桜が『指輪が無かったら秋哉が俺の傍に居てくれない』と言った。
確かにあれは俺が『ずっと傍に居る証』として贈った物。
緋桜は指輪を無くしたら俺が離れていくと思ってる。
だから指輪を無くした時、俺の事を考える余裕すらないほどに必死に探してた。
俺はそれが堪らなく悔しかった。
それに俺は絶対に緋桜から離れないってずっと伝えてたつもりだった。
それが伝わってなかったのかと思うと、すごい寂しかった。
自分が贈った指輪に嫉妬するなんて馬鹿げてるとは思う。
結果、緋桜を泣かせてしまった。
抱き締めた緋桜はいまだに泣いて俺に擦り寄ってくる。
俺はどんなけ心が狭いんだ。
そう思って、俺は自分自身に呆れた。
「ごめん、緋桜に対してじゃないんだ」
そう言って緋桜を抱き締める手に力を入れる。
「確かに緋桜が、指輪が無くなったら俺が離れていくって思ってることに悔しかったし、寂しかった」
俺がそう言うと、緋桜は辛うじて聞き取れるくらいの声で『ごめん』と言う。
「違う、謝らなきゃいけないのは俺の方。緋桜がその指輪を大事にしてくれてるのは知ってるし、俺も嬉しい。けど、指輪より俺自身を見てほしいって思ったんだ」
そう言うと、緋桜は顔だけを上げて俺を見る。
その目にはまだ若干涙が残っていて、俺はその涙を指で拭う。
「不安にさせてごめん。まさか自分で贈った指輪に嫉妬するなんて、自分で自分が呆れてる」
そう言って、俺は苦笑した。
それに対して、緋桜は小さく首を振った。
「……俺が勝手に不安になっただけ。これが無くなった時、秋哉も一緒に居なくなってしまうんじゃないかと思った」
そう言って緋桜は指輪をギュッと握る。
その表情からは、まだ少し不安の色が見えている。
俺はそんな緋桜をもう一度抱き締めた。
「ねぇ緋桜、これだけは覚えておいて。それは俺がずっと傍にいる証として贈った物だけど、そんなものが無くたって俺は緋桜から離れないよ」
そう言うと、緋桜も俺の服をギュッと握る。
「……うん」
緋桜は小さく頷くと、俺の胸に顔を埋めた。
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