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第298話
(秋哉side)
「そろそろ戻ろうか?」
そう言うと、緋桜は頷いた。
あれからもうしばらく、俺たちはその場にいた。
緋桜が落ち着くのを待ってたっていうのもあるけど、何となくまだ二人で居たかった。
でも気付いたらもう9時を過ぎてて、いくらくっついていたとはいえ、寒空の下長時間居たら体が冷える。
緋桜も微かに震えてた。
部屋に戻る途中、売店で温かい缶コーヒーを買っていく。
あまり自覚はしてなかったけどコーヒーを飲むと、その温かさが体に染み渡ってくのが分かったから余程冷えてたんだろう。
緋桜を見ると、緋桜も缶コーヒーを握り締めていた。
部屋に戻ると当然先輩たちは起きてて、佐倉先輩に『遅い!』と怒られた。
「外寒かったでしょ?」
そう言いながら宮藤先輩が寄ってくる。
「…って中村くん、どうしたの!?」
宮藤先輩は緋桜の顔を見るなり驚いた顔をした。
その後、キッと俺を睨んでくる。
「秋哉くん、中村くんに何したの!?」
「……いや…まぁ、色々あって……」
流石に俺も、どう答えていいのか分からなくて言葉を濁した。
宮藤先輩はそんな俺に大きなため息をついた後、緋桜の方を向く。
「中村くんこっち来て、目冷やそ?」
そう言って、宮藤先輩は緋桜をバスルームに引っ張っていった。
「お前さぁ、何があったのか知らないけど、中村泣かすなよ」
宮藤先輩と緋桜の姿が見えなくなると、佐倉先輩が呆れたようにそう言う。
「そうですよ!中村くんも楽しそうにしてたのに、最終日に泣かせるってどういうつもりですか?」
と日向先輩も少し怒ってる。
少し時間が経って落ち着いたとはいえ、緋桜の目は赤くなってて泣いたのが一目瞭然だった。
俺も泣かせるつもりなんて全然無かったけど、今回は完全に俺が悪い。
緋桜も分かってはくれたけど、完全に気持ちが戻ってなくて、まだどこか浮かない顔をしていた。
俺は普段なら聞き流すところを反省の意も込めて、二人の小言を受け入れた。
ただ二人の言葉を聞いてる反面、どうやったら緋桜の気持ちが戻るのか、そればかり考えてた。
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