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第301話
『今緋桜が思ってること、俺に聞かせて』
そう言われて俺は、本当に良いのかと思って秋哉を見る。
秋哉と目が合うと、秋哉はニコッと笑ってくれた。
『秋哉くんなら、絶対受け止めてくれるから』と宮藤先輩の言葉が浮かぶ。
「……これ、失いたくない」
俺は首からさげた指輪を握る。
「これは秋哉に初めて貰ったものだから……」
そう言うと、秋哉は何も言わず頷いてくれる。
「俺は何も持ってないから……持たなくてもいいとずっと思ってた。だけど、これだけは失いたくない。……でも、秋哉とも離れたくない」
俺はいつの間にこんなに欲深くなったんだろう。
もう何も失いたくないと思ってる。
でもこんな我が儘、秋哉は呆れちゃうかな。
そう思っていると、秋哉に抱き締められた。
「失いたくないって思うのは普通の事だよ。誰だって大切なものは失いたくない、それは俺だって一緒。俺だって緋桜と離れたくないし、ずっと一緒に居たい」
そう言うと、秋哉は少し離れて俺を見て笑う。
「緋桜と同じ」
そう言って秋哉はまた俺を抱き締める。
「今回は俺が全部悪いって思ってた。緋桜がその指輪を大事にしてるのは知ってたのに、それを手離してもいいようなことを言った」
そう言う秋哉に、俺は首を振る。
「違う、その原因を作ったのは俺。秋哉は悪くない」
そう言うと、秋哉はクスクスと笑った。
「やっぱり平行線だね。さっきまで俺が悪いって思ってたけど、緋桜の気持ち聞いて、先輩たちの話も聞いて、今回の事はどっちも悪いし、悪くないと思う」
秋哉はそう言いながら、俺のおでこにコツンと自分のおでこをつけた。
「でも緋桜に悲しい思いさせちゃったから、それはごめん」
「……俺も、秋哉に寂しい思いさせた」
俺も『ごめん』と言って秋哉を見ると秋哉と目が合って、お互いに思わず笑ってしまった。
「宮藤先輩が『仲直りしなきゃね』って言ってた………これで仲直り、できた?」
そう聞くと、秋哉はクスッと笑う。
「別に喧嘩してた訳じゃないけどね」
……これって喧嘩じゃないんだ。
って言っても、喧嘩がどんなものかよく知らないけど。
「でもまぁ、仲直りには変わりないかな」
そう言って秋哉は笑う。
俺は仲直りよりも、秋哉が笑ってくれる事が嬉しかった。
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