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第304話 SS
(秋哉side)
旅行から帰って来た次の日、俺たちはお土産を渡す為に緋桜の実家に来ていた。
昨日緋桜が帰って来たことをゆかりさんに連絡すると、今日が優さんも休みってことで急遽来ることになった。
佐々木に送ってもらって緋桜の実家に着くと、二人が玄関の外に居て出迎えてくれた。
「緋桜、お帰り」
「お帰り」
そう言って二人が緋桜を迎える。
「……ただいま」
緋桜は、ちょっと前まではこのやり取りも戸惑ってたけど、今ではだいぶ慣れてきたみたいだ。
「秋哉くんと佐々木さんもいらっしゃい」
ゆかりさんが緋桜の後ろに居た俺と佐々木にも声を掛ける。
「ゆかりさん、優さん、こんにちは」
俺が二人に挨拶をして、佐々木が頭を下げる。
「秋哉さん、俺はこれで」
二人に挨拶すると、佐々木がそう耳打ちしてくる。
「ん、帰る頃になったら連絡する」
そう言うと、佐々木は頷いて車に乗り込もうとした。
「え!?佐々木さん帰っちゃうの?」
車に乗り込もうとした佐々木をゆかりさんが止めた。
「すいません。これからやることがあるので」
「そっか、残念ね」
そう言ってゆかりさんは本当に残念そうな顔をした。
前にここに来たときに、迎えにきた佐々木にゆかりさんのテンションが上がってたって緋桜に聞いた。
ゆかりさんはどうやら佐々木の事がお気に入りらしい。
ただその時、優さんが微妙な顔をしてた。
俺たちは二人にリビングに案内される。
その後ゆかりさんはお茶を淹れると言ってキッチンに行った。
「秋哉くん、ちょっと聞きたいんだけど、佐々木さんは一体どんな人なんだい?」
と優さんが真剣な顔で聞いてきた。
改まって聞いてくるからなんだと思ったらそんな事で、俺と緋桜は顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「父さん、佐々木さんはいい人だよ」
緋桜がそう答える。
「…そうなのかい?」
「うん、俺もお世話になってる」
緋桜がそう言うと優さんは納得したのか、『そうなのか』と呟きながら頷いていた。
そういえば、優さんには佐々木のことをちゃんと紹介してなかったな。
そう思って、今度ちゃんと佐々木を紹介しようと思った。
「楽しそうね、何の話をしてたの?」
優さんと話してると、ゆかりさんがお茶を持って戻ってきた。
「佐々木さんの事」
と緋桜が答えると、ゆかりさんのテンションが上がった。
佐々木の事を興奮気味に話すゆかりさんに、優さんがまた微妙な顔をしてた。
どうやら優さんは佐々木に対して妬いてるらしい。
それが分かると、俺は思わず笑いそうになってしまった。
ふと緋桜を見ると、緋桜は何か落ち着かない様子でソワソワしてる。
そんな緋桜を見て、今日ここに来た目的を思い出した。
「そうだ緋桜、あれ渡さなきゃ」
俺がそう言うと、ゆかりさんと優さんは顔を見合わせる。
緋桜も少し躊躇してるみたいだった。
しばらく経って、緋桜も覚悟を決めたのか、カバンからゴソゴソと取り出す。
「……これ、旅行のお土産」
そう言って緋桜は二人にお土産を渡す。
二人はそれを無言で受け取った。
「……開けてもいい?」
ゆかりさんが緋桜に確認を取る。
緋桜はそれにコクンと頷いた。
ゆかりさんが包装紙をゆっくりと開けていく。
それに従って、優さんも開け始めた。
その間、緋桜は俺の服をギュッと握っていた。
……なんか、俺まで緊張する。
包装紙を開け終えて、二人が中身を確認した。
「……これ、緋桜が選んでくれたの?」
とゆかりさんが緋桜を見て言う。
緋桜はコクンと頷いて答える。
「……先輩たちに相談して…母さんに、似合うかなって……父さんには…普段、使えるようにって…」
このお土産は緋桜が二人を想って一生懸命選んでた。
「ありがとう、大切にするね」
そう言ってゆかりさんがニコッと笑う。
「すごい使いやすそうだ、有り難く使わせてもらうよ」
と優さんも緋桜から貰った手帳を手に笑った。
「喜んでもらえて良かったね……って、なんで泣いてるの!?」
喜んでくれてる二人を見て緊張が解けたのか、そう言って緋桜を見ると緋桜の目からポロポロと涙が溢れていた。
俺が服の袖で拭っても、緋桜の目からは次から次に溢れてくる。
ゆかりさんと優さんもそれには焦ってた。
「……ごめん、なんかホッとしたら…勝手に…」
そう言って緋桜も自分で涙を抜ぐう。
でも緋桜の涙はその後も、しばらく止まらなかった。
しばらくして、ようやく泣き止んだ緋桜がゆかりさんの淹れたお茶を飲む。
「…落ち着いた?」
そう聞くと、緋桜はコクンと頷いた。
ゆかりさんと優さんも泣き止んだ緋桜を見てホッとしたみたいだ。
「いきなり泣き出すからちょっと驚いちゃった」
とゆかりさんがクスクスと笑いながら言う。
「……ごめん」
と緋桜もちょっと照れたように謝った。
「あ、あとこれ、緋方にも……買ってきたんだけど」
そう言って緋桜は緋方の分のお土産を取り出す。
それを見てゆかりさんと優さんは顔を見合わせる。
「…あの子、最近あまり連絡がないのよね
学校が忙しいのかも知れないけど……」
そう言ってゆかりさんは心配そうな顔をする。
その後『良かったら私から渡しとく』とゆかりさんは言った。
緋桜もそう言われてゆかりさんにお願いしてたけど、ちょっと複雑そうな顔をしてた。
もしかしたら自分で渡したかったのかもしれない。
「ところで、二人は年末はどうするの?」
ゆかりさんにそう聞かれて、俺と緋桜は首を傾げた。
「予定が無かったら帰ってきなさい」
とゆかりさんは言う。
それを聞いた緋桜が俺を見てくる。
『二人』ってことは、俺も数に入ってるんだろう。
「……年末の予定はまだ分からないので」
予定が決まったら連絡するということでその話は終わった。
夕方になって、俺たちはそろそろ帰ることにした。
帰るために佐々木に連絡する。
佐々木が来ると分かって、ゆかりさんのテンションがまた上がってた。
「……じゃあ、また連絡する」
別れ際、緋桜が二人にそう言う。
「気を付けてね」
「またいつでも帰ってきなさい」
と二人が緋桜に言うと、緋桜も嬉しそうに頷いた。
「秋哉くんと佐々木さんも、緋桜の事よろしくお願いします」
とゆかりさんが俺と佐々木に頭を下げてきて、俺たちもそれに答えた。
「佐々木さん!今度はゆっくり話しましょう!」
パッと頭を上げたゆかりさんが佐々木に詰め寄った。
佐々木もそれにはちょっと狼狽えてた。
その時の優さんは、また微妙な顔をしてた。
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