308 / 452

第305話 SS2

(秋哉side) 秋休み最終日の朝、佐倉先輩から突然メールが来た。 その内容は『今から行く』、それだけだった 。 俺はそのメールの意味を理解するのに少し時間が掛かった。 佐倉先輩のメールを見て、取り合えず先輩に電話してみた。 先輩の話では、宮藤先輩の撮った旅行の写真が仕上がったから皆で見よう、との事だった。 それならそうと、メールの時点で言えばいいのにと思ってしまう。 先輩のメールはいつも簡略的で重要な事が書かれてない事が多い。 だから一度連絡を取る必要がある。 「先輩たち何時くらいに来るの?」 そう緋桜が聞いてくる。 「もうすぐ来ると思うけど……」 集まる場所として、先輩たちの達ての希望で俺の家になった。 旅行の時にホテルのスイートルームで緋桜が言った『秋哉の家にみたい』って言葉が気になってたらしい。 まぁ俺は別に構わないけど、佐々木に迎える準備が何もしてないと言われて、先輩たちには昼頃に来てもらうことにした。 「秋哉さん、お昼ご飯はどうするんですか?」 『食べるなら皆の分も作りますよ』と佐々木が言う。 「あー、どうだろ?先輩たちが来たら聞いてみるよ」 俺がそう言うと、佐々木は『分かりました』と言ってまたキッチンに戻っていった。 佐々木はおやつにクッキーを焼いてるらしい。 別に買ってくればいいと思うけど、佐々木曰く『秋哉さんがお世話になってる先輩たちなので』だそうだ。 俺も取り合えず、緋桜と一緒に部屋を軽く片付けていた。 そんな事をしてると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。 俺は『来たな』と思って、玄関まで出迎えに行った。 「よう!」 玄関を開けると、佐倉先輩が手を上げてそう言う。 「秋哉くん、中村くん、こんにちは」 そう言って宮藤先輩がニコッと笑う。 「突然すいません」 と日向先輩が申し訳無さそうに謝ってきた。 「どうぞ、上がってください」 そう言って俺は、先輩たちを家の中に招き入れた。 俺は先輩たちを取り合えずリビングに案内した。 先輩たちは家に入った瞬間から、キョロキョロと周りを見回していた。 「……中村がホテルのスイートに動じなかったのも納得だな」 リビングに入った瞬間、佐倉先輩が呟く。 「お金持ちってのは知ってたけど、想像以上かも……」 と宮藤先輩も呆気に取られている。 日向先輩に至っては、言葉にならなかったみたいでポカンとしていた。 「いらっしゃい、どうぞ座ってください」 キッチンから出てきた佐々木が立ったままの先輩たちソファーに座るように促す。 「お茶を淹れたので、良かったら」 そう言って佐々木はテーブルに人数分のソーサーを並べると、ティーポットに入った紅茶を注いだ。 その様子を先輩たちはただ見てるだけだった。 「………あっ!噂の佐々木さん!」 と佐倉先輩が、突然佐々木を指差してそう叫ぶ。 それに佐々木も驚いてた。 その後、佐々木はクスクスと笑う。 「どんな噂かは知らないけど、佐々木 玄十です」 佐々木は『よろしく』と言って、軽く頭を下げた。 そういえば先輩たちは佐々木の存在は知ってても、ちゃんと会ったことはなかったなと今さら思い出す。 「ところで、皆さんはお昼ご飯はどうするんですか?」 そう佐々木が先輩たちに聞く。 先輩たちは『どうする?』とお互いを見合う。 「良ければ皆さんの分も作りますよ」 佐々木がそう言うと、先輩たちの表情が変わった。 「本当ですか!?じゃあよろしくお願いします」 と真っ先に言ったのは宮藤先輩だ。 宮藤先輩はその後『いいよね?』と言うように佐倉先輩と日向先輩の方を見て微笑む。 二人はそれに頷いた。 その様子を見て、佐々木もクスッと笑った。 「分かりました。今から準備するので少し待っててください」 そう言って、佐々木はキッチンに戻っていった。 「はぁ、チラチラとは見たことあったけど、間近で見るとカッコいいね」 と宮藤先輩がボソッと呟く。 「出来る男って感じだよな」 と佐倉先輩が言う。 「見た目があれで、仕事も出来るんじゃモテるんじゃないですか?」 と日向先輩が聞いてくる。 そういえば、佐々木のそういう話は聞いたことなかったなと思うけど。 「あまり知らないですけど、モテるんじゃないですかね」 俺がそう言うと、皆納得していた。 しばらくするとお昼が出来たと佐々木が言いに来て、俺たちはダイニングに移動した。 佐々木がテーブルに出来上がった料理を運ぶ。 緋桜もそれを手伝ってた。 俺たちはお昼を食べて佐々木も交えて少し話すと、今度は俺の部屋に移動した。 部屋に入ると、先輩たちはまた周りを見回す。 そこまで珍しいものはないと思うんだけどな。 そう思いつつ、俺はしばらく先輩たちを自由にさせてた。 だけどいつまで経っても座ろうとしない先輩たちを、俺は痺れを切らせてソファに座るよう促した。 丁度その時、佐々木がお茶と焼いたクッキーを持ってきた。 俺はそれを受け取る。 佐々木が『いれますか?』と聞いてきたけど、それは断った。 俺がティーセットの乗ったお盆をテーブルに置くと、緋桜が率先してソーサーをテーブルに並べた。 緋桜が並べたソーサーに俺が紅茶を注いでいく。 テーブルの中央に佐々木が焼いたクッキーを置いて、それぞれの前に紅茶の入ったソーサーを置いた。 これで立派なティータイムだ。 「で、旅行の写真が仕上がったって聞いたんですけど?」 俺は早速話題に入る。 「あ~そうそう、そうだった」 佐倉先輩がクッキーを口に運びながら、思い出したようにそう言う。 本題を忘れるって、一体ここに何しに来たんだ。 そう思って、俺は少し呆れた。 「これこれ!」 と佐倉先輩が自分の荷物からアルバムを取り出す。 俺は宮藤先輩が持ってるものだと思って少し驚いた。 「あぁ、これは翠が重いって言って俺に持たせてたんだよ」 俺が何考えてるか分かったようで、佐倉先輩がそう言う。 見ると先輩がカバンから取り出したアルバムは想像してたものより分厚くて大きい。 普通に500枚くらいは貼れそうなアルバムだ。 それを見て、佐倉先輩が持ってた理由が納得出来た。 ………てか、宮藤先輩は一体何枚撮ってたんだ? そう思うような枚数だった。 「……先輩、見てもいいですか?」 緋桜が待ちきれないように宮藤先輩に聞く。 そんな緋桜を見て宮藤先輩は『ふふっ』と笑う。 「いいよ」 と言ってアルバムを持ってた佐倉先輩に視線を送った。 その視線に気付いた佐倉先輩が緋桜にアルバムを渡した。 緋桜は目を輝かせなからアルバムを受け取ると、それを皆に見えるようにテーブルの中央に置いて広げた。 写真に拘ってるだけあって、そのアルバムはきちんと整理されていた。 1日目、2日目、3日目とちゃんと分けられている。 写真の横にはちょっとしたメモ書きが付け加えられていた。 アルバムの1ページ目は空港から始まっていた。 空港で皆で撮ったものもあれば、明らかに勝手に撮ったものもある。 俺が飛行機を嫌がる緋桜を宥めてるところとか、佐倉先輩と日向先輩が話してるところとか。 1日目の夜に仕掛けられた寝起きドッキリの時の俺と緋桜の寝顔写真もあった。 ………なんか、俺と緋桜率高くないか? そう思って、俺は改めて俺と緋桜の写った写真を見る。 どの写真でも、俺は緋桜を見ててニヤけている。 …俺、緋桜の前ではこんな顔してるのか。 そう思うと、ちょっと恥ずかしいものがある。 この時に、宮藤先輩は俺たちの入浴シーンも撮ろうとしてたことを佐倉先輩と日向先輩に聞いた。 日向先輩が止めるの大変だったと呟いてて、俺は苦笑が漏れた。 「……で?他のはどこにあるんですか?」 俺が宮藤先輩にそう聞くと、先輩はきょとんとする。 「他のって?」 「どうせ他にも撮ってるでしょ?」 『それはどこにあるんですか?』と聞くと、先輩は明らかに動揺した。 「こ、これで全部だよ?他のなんてないよ」 と先輩は俺から目を逸らせて言う。 先輩が隠し撮りしてるのは知ってるし、別に撮られるのは構わないけど、緋桜のは別だ。 どんなのを撮られてるか分かったものじゃない。 「……先輩?」 俺は宮藤先輩を見つめると、『見せてくれますよね?』という意味を込めてニコッと笑った。 先輩も明らかに焦っていて、一向に目を合わせようとはしない。 「…先輩、隠し撮りは犯罪ですよ?」 俺がそう言うと先輩も観念したのか、カバンからデジカメを取り出して渡してきた。 俺はそれを受け取ると中身を確認した。 デジカメに入ってたのは、このアルバムに貼ってある写真とは全て別のもの。 たった3日間でどれだけ撮ったんだ? デジカメの中に入ってたデータは軽く100枚を越えていた。 俺はピッピッと写真を確認していく。 今のところ問題はないか…… そう思ってると、1枚の写真に目が止まった。 「……先輩、この写真」 そう言うと、宮藤先輩は『どれどれ?』と覗き込む。 「あぁ、それは朝に秋哉くんと中村くんが海に行った時のだよ。 なんか素敵なおじさまだったから撮っちゃった」 そう言って先輩は笑う。 その写真に写ってたのは、泣いてる緋桜とそれを慰めてるであろう男の人。 俺はその光景に心当たりがあった。 ……これって。 でも俺の視線は泣いてる緋桜よりも、一緒に写ってる男の人の方に向いていた。 その後も旅行の話が盛り上がって、先輩たちは夕ご飯もしっかり食べて帰っていった。 ただ、俺はあの写真の男の人が気になってそれどころではなかった。

ともだちにシェアしよう!