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第313話

……木崎って……まさか……? そう思って俺は、その人を見る。 その人と目が合うと、その人はクスッと笑った。 「察してる通り、私は秋哉の父だよ」 驚きはしたけど、俺は納得した。 旅行で初めてこの人に会った時、笑顔が誰かに似てると思った。 秋哉だったんだ。 「……俺の事、知ってたんですか?」 「息子の恋人だからね。悪いけど少し調べさせてもらったよ」 「あの時も、俺の事知ってて声を掛けたんですか?」 そう聞くと、秋哉のお父さんは『あの時?』と考え出す。 「あぁ、あの時は偶然だよ。君の事を知ってはいたけど、まさかあそこで会うとは思ってなかったから驚いたよ」 と言って秋哉のお父さんは笑う。 さっきから表情が変わらないから、どこまで本当なのか分からない。 多分、嘘は言ってないと思うけど。 「あの秋哉に恋人が出来たって聞いた時は信じられなかったよ。秋哉は今までそういう噂はあったけど、特定の人を作らなかったからね」 そう言って、秋哉のお父さんは俺をじっと見る。 「ましてや、その相手が男っていうんだから驚いたよ」 秋哉のお父さんからはさっきまでの笑顔は消えていて、無表情で俺を見てくる。 「君の存在を知ってから、ずっと君と話したいと思ってた。回りくどいのは嫌いでね、単刀直入に言うよ。   秋哉と別れて欲しい」

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