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第316話

『直に秋哉さんも来ます』 佐々木さんがそう言うと、部屋の中が沈黙に包まれる。 それを壊したのは一本の電話の着信音だった。 急になった着信に思わず体が跳ねる。 その電話を秋哉のお父さんが取る。 「はい?……あぁ、いいよ大丈夫だから」 秋哉のお父さんはそう言うと電話を切った。 「秋哉が来たらしい」 秋哉のお父さんがため息混じりにそう言う。 「全く、秋哉も玄十くんも何故この子の事をこんなにも気にかけるのか…」 秋哉のお父さんは俺を見ながらそう言う。 俺は思わず、目を逸らしてしまった。 「それはあなたが緋桜くんの事を知らないからですよ」 佐々木さんがそう言って、秋哉のお父さんから俺を隠すように俺の前にスッと立った。 「緋桜くんは…」 「佐々木、もういいよ」 そう言って入ってきたのは秋哉だった。 「秋哉、ノックくらいしなさい」 そう言うお父さんを横目に秋哉は俺の前にしゃがむ。 「緋桜、大丈夫?」 そう聞かれて、俺は頷く。 「ん、良かった」 そう言って秋哉はニコッと笑った。 俺は、その笑顔でさっきまでの不安が和らいだ。

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