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第317話

(秋哉side) 親の会社に着くと、俺はそのまま社長室に向かった。 俺が来たことはあの人にもう伝わってると思うから、止められないってことは『来い』ってことか… そう思うと、苦笑が漏れた。 社長室の前まで来ると、微かに話し声が聞こえてきた。 『それはあなたが緋桜くんの事を知らないからですよ』 と佐々木の声が聞こえてくる。 やっぱり佐々木を先に行かせて正解だったな。 佐々木も何があっても緋桜の見方だ。 そう思うと自然と笑っていた。 俺が中に入ると、全員の視線が俺に向く。 俺が入るなり、あいつは『ノックくらいしろ』と相変わらずの笑顔で言う。 本当、気に入らない。 俺はそれを無視して緋桜を見た。 緋桜は不安そうな顔で俺を見てる。 緋桜の前にしゃがむと、緋桜は真っ直ぐ俺を見た。 『大丈夫?』と聞くと緋桜は頷くけど、あの人から見えない方の手で俺の腕を掴んできた。 やっぱり相当不安だったんだろう。 俺はその手にそっと触れて微笑んだ。 そうすると、緋桜の表情が和らいだ。 「何緋桜を連れ去ってんの?」 俺はあいつの横にいる当間さんに視線を向けた。 「連れてこいと、社長の指示だったので」 と当間さんはしれっと言う。 その言葉に俺はそいつを見る。 「いつか来るとは思ってたけどな」 そう言いながら、俺はあいつの前に立つ。 「あんたが緋桜に何を言ったのかはあらかた想像つく。でも、俺たちはあんたの思い通りにはならない。今後、緋桜に何かしたら、俺はあんたを徹底的に潰すからな」 そう言うと、そいつは大きくため息をつく。 「何も男を選ばなくても… 秋哉だったら、他に良い子が沢山居るだろう?何でその子なんだい?」 「男とか、そんなのは関係ない。俺は緋桜だから一緒に居たいと思う。あんたが何て言おうと、これからもそれは変わらない」 そこまで言うと、俺は緋桜の側に戻った。 「緋桜、帰ろ?」 そう言って手を差し出すと、緋桜は少し躊躇しながら俺の手を取る。 俺はその手を握ると、緋桜を引っ張って社長室を出た。 その時緋桜はあいつの事が気になるのか、あいつの方に視線を向けていた。

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