321 / 452
第318話
(浩一side)
「良かったんですか?」
三人が出ていってしばらく、伊織くんがそう聞いてくる。
「引き止めたって、あの子たちは私の言うことなんて聞かないからね」
そう言って、私は三人が出ていった扉に視線を向ける。
「あなたでもそんな顔するんですね」
そう言って伊織くんはクスッと笑う。
「……そんな顔ってどんな顔だい?」
「子供の親離れが寂しいって顔です」
「………君は意地悪だね」
そう言って少しムスッとした顔を見せると、伊織くんはまたクスクスと笑う。
「でも、あんな秋哉を見たのは初めてだよ。今までは私が何をしても素知らぬ顔で見過ごしてた秋哉が、玄十くんまで使ってあの子の事を迎えに来たんだからね」
「それだけ秋哉さんがあの子の事を本気だって事ですよ」
「あの子も少し脅せば引き下がると思っていたけど、芯はしっかりしてるみたいだ」
そう言うと、伊織くんが何かニヤけてる。
「……何笑ってるんだい?」
「いや、社長が嬉しそうなので」
「そうだね、秋哉にもそういう相手が見つかったってことは喜ばしい事だね。………ところで、君はどうなんだい?」
そう聞くと、伊織くんはきょとんとする。
「見た感じ、全然進展してないじゃないか」
「……俺の事は良いんですよ」
そう言って伊織くんは視線を逸らす。
「のんびりしてると誰かに取られてしまうよ?」
「良いんですよ、それであいつが幸せなら」
「君も大概だね。まぁ、その時になって慌てればいいよ」
「………社長も意地悪ですね」
そう言って伊織くんがジロッと見てくる。
「さっきの仕返しだよ」
そう言うと、伊織くんは呆れたようにため息をついた。
ともだちにシェアしよう!