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第320話
「………秋哉は、お父さんのこと嫌いなの?」
秋哉はお父さんの事を『あいつ』とか『あの人』とか言って、決して『お父さん』とは呼ばない。
俺がそう聞くと、秋哉は驚いた顔をして黙ってしまった。
今まで、秋哉から両親の話は殆ど聞いたことがなかった。
秋哉も両親とは何かあるんだろうとは思ってたけど、俺なんかが聞いて良い話じゃないと思ってずっと聞かなかった。
「……別に、嫌いな訳じゃない。寧ろ、向こうの方が俺の事……疎ましく思ってるんじゃないかな」
「……え?」
「俺が小学生くらいの時は、よくあそこに連れて来られてたんだ。って言っても、あの人は仕事だったから、邪魔にならないように佐々木と別室に居たけど。
あの人は仕事人間だから、一緒に遊んだ記憶なんて無いけど、昔は近くに居られるだけで良かったんだと思う」
秋哉はどこか遠い目をして話す。
「でも中学に上がる頃には、勉強の事や友人の事で口を出すようになった。その頃から俺にあの会社を継がせようとしてたみたい」
そういえば、そんな事を言ってたような気がする。
「まぁ、俺もその頃はかなり反発したけど」
そう言って秋哉は『ハハッ』と乾いた笑いを漏らす。
「俺が言っても聞かないって分かったら、今度は相手に直接手を出すようになった。
今日みたいにあの人が直接会うのは初めてだけど、色々手を使って俺の周りの人を離れていくようにした」
………秋哉も俺と同じだったんだ。
そう思うと、胸がキュウっと痛くなった。
「……なんで、そんな事したのかな」
人が自分から離れていく辛さは手に取るように分かる。
それが実の父親のせいだったら尚更辛い。
「あの人が何をしたかったのかは分からない。あの人のせいで沢山の人が俺から離れていったけど、離れていかない人たちも居たんだ」
そう言う秋哉を見ると、秋哉はニコッと笑う。
「先輩たちがそうだよ」
「……先輩たち?」
俺がそう言うと、秋哉は頷いた。
「あと、前の生徒会長」
「前の生徒会長?」
俺は会ったこと無いな。
「前の生徒会長とは、俺が丁度高校受験を控えてた時に会ったんだ。ただ、その時は俺もちょっと荒れててね」
と秋哉は少し照れたように笑う。
「ちょっとじゃないですよ!あの頃、俺がどれだけ大変だったか」
今まで黙ってた佐々木さんからツッコミが入って、俺は少しびっくりする。
「ちょっ!今はそれはどうでもいいだろ!」
と秋哉は身を乗り出して佐々木さんを止めた。
あの佐々木さんが我慢出来ずに口を挟むくらいだから、どうやら秋哉は俺が思ってる以上に荒れてたみたいだ。
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