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第325話

(秋哉side) 緋桜はあの人に会えて良かったと言う。 あの人に会ってそんな事を言うのは緋桜が初めてだった。 大抵の人はあの人の言う通り俺から離れるか、先輩たちみたいに圧力を気にせず、完全に無視するかだ。 それでも後者は珍しい。 おまけに緋桜はあの人に認めてほしいとまで言った。 「……どうして、緋桜はあの人に認めてもらいたいの?」 そう聞くと、緋桜はきょとんとする。 「だって、秋哉のお父さんだから… 秋哉のお父さんが言ってたことは、当然だと思う。 俺は秋哉に与えて貰ってるだけで、俺からは何もない。 息子の相手が男ってだけでもアレなのに、その相手がこんなんじゃ認められなくて当然だ。 ……だから俺も、胸張って俺が秋哉の相手だって、言えるようになりたい」 声はまだ少し弱々しいけど、真っ直ぐ俺を見るその目からははっきりと意志が伝わってくる。 変わらなくていいのに、緋桜はそれを望んでない。 数ヶ月前までは人と話すどころが、触れられる事すら駄目だったのが、今はこうして俺の目を見てはっきりと自分の意思を伝えてくる。 緋桜は自分は変われてないって言うけど、誰が見たって確実に変わってきてる。 「俺は緋桜から沢山のものを貰ってるよ」 そう言って、俺は緋桜の頬に手を添える。 「こうして人を大切にしたいと思ったのも、一緒に居たいと思ったのも、こんなにも好きになったのも緋桜が全部初めて。 俺には緋桜しか居ない。 緋桜しかいらない、側に居てほしいのは緋桜だけ。 だから緋桜、自分に何もないなんて言わないで」 そう言って俺は緋桜を抱き締めた。

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