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第327話

「バイト?」 家に帰って、先輩に言われた通りバイトの事を秋哉に相談してみた。 「……佐倉先輩が、バイトしてみたらどうかって」 「……どうして?」 一瞬、秋哉の声が低くなった気がして少し引いてしまう。 「……ぁ……先輩に相談したら、一度世間に出るのも良いんじゃないかって…… あれからずっと考えてて、秋哉は今のままでいいって言ってくれたけど、秋哉のお父さんが言ってたことは当然で……俺……やっぱり変わらなきゃと思って、でもどうしたらいいのか分からなくて……」 話してる内に、自分でもどんどん何を言ってるのか分からなくなってくる。 その内秋哉からため息が聞こえてきて、思わず体が揺れた。 やっぱり俺がバイトをする事、反対なのかな? 「良いんじゃない?」 思っていたのとは逆の言葉に、俺は秋哉を見る。 目が合うと、秋哉はニコッと笑った。 「緋桜がやりたいならやってみると良いよ」 「……反対、しないの?」 そう言うと、秋哉は少し困ったように笑う。 「確かに少し心配ではあるけど、いい機会なんじゃないかな。緋桜はもっと色んな事を経験した方がいい。……それに、緋桜はもう決めてるんでしょ?」 そう聞かれて、俺は口籠ってしまった。 そんな俺を見て秋哉がクスクス笑う。 「緋桜は大抵は事後報告だからね。まぁ、今回は事前に相談してきたからいいけど」 「……ぁ…えと…先輩に、秋哉に相談するようにって……言われた」 俺が目を泳がせながら言うと、秋哉は更に笑った。 「で?何のバイトするかは決めてるの?」 一頻り笑い終えた秋哉がそう聞いてくる。 「……カフェ。 佐倉先輩の叔父さんがカフェをしてて、バイトを探してるって。 先輩が紹介してくれるって言ってた」 「カフェって事は接客か……」 そう言うと、秋哉はチラッと俺を見る。 「大丈夫?」 そう聞かれて、俺は少し考えてみる。 確かに人と接する事が苦手な俺に接客が勤まるのかどうか…… 「……分からない……でも、やってみたい」 「うん分かった。でも無理だけはしないで」 そう言って微笑む秋哉に、俺は頷いた。

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