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第332話
(秋哉side)
緋桜がバイトをすると先輩に伝えてから、先輩の行動は早かった。
早々に叔父さんに連絡して、会う約束まで取り付けていた。
それには緋桜も戸惑っていた。
緋桜も『やりたい』とは言ったものの、こんなに早く話が進むとは思ってなかったんだろう。
先輩の叔父さんの店に行く当日も、緋桜は半ば先輩に流されてる感じだった。
こんな訳の分からないまま流されて大丈夫なのかと、ちょっと心配になった。
案の定車に乗って、先輩の叔父さんの店が近付いてくる度に緋桜の顔が強ばっていった。
途中、緋桜は緊張してるのか深呼吸をしたり、拳を握りしめたり。
でもその顔はどんどん青ざめていく。
その尋常じゃない様子に、俺は佐々木に車を停めさせた。
緋桜は俯いてぶつぶつと何か呟いている。
何を言ってるのかは俺には聞き取れない。
緋桜は声を掛けても反応がなかった。
そんな緋桜を先輩と佐々木も心配そうに見ている。
俺は何とか緋桜を落ち着かせようと、緋桜の手を握った。
その瞬間緋桜の体がビクンと跳ねて、ようやく俺を見てくれた。
周りが見えたことで緋桜も少し落ち着いたみたいだけど、それも完全ではなかった。
こんな状態じゃ行くのは無理だと思ったけど、それを決めるのは緋桜だ。
そう思って、俺は緋桜に『行くの止める?』と聞くと、緋桜は首を振った。
緋桜が行くと決めた以上、心配ではあったけど俺はそれを止められない。
俺は佐々木に言って再び車を出してもらった。
ただやっぱりまだ落ち着かないのか、緋桜はずっと俺の手を握っていた。
店に着いてからも緋桜は見えないところでずっと俺の服を握っていた。
先輩が叔父さんを呼ぶと、店の奥から男の人が出てくる。
先輩の叔父さんだけあって、どことなく先輩に似てた。
先輩の叔父さんと目が合うと、緋桜は俺の後ろに隠れてしまった。
こんな調子で本当に大丈夫なのかと思う。
でも緋桜自身、やる気はあるから何か切っ掛けがあれば大丈夫とも思った。
そう思って俺は、先輩に呼ばれてもなかなか動かない緋桜を後ろから引っ張り出した。
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