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第333話
(秋哉side)
「すごいですね、先輩の叔父さん。あの緋桜が素直に着いてった」
「まぁ叔父さんは雰囲気が柔らかいから、結構人に懐かれやすいんだよね。ここも知らない場所じゃないし、中村にはいいと思ったんだ」
『ここならそんなに遠くないし、たまに様子も見に来られるだろ』と先輩は言う。
先輩はちゃんと緋桜の事を考えていてくれたんだ。
「………何驚いた顔してんだよ?」
そんな事を考えていると、先輩がそう言ってジトッと見てくる。
どうやら顔に出てたみたいだ。
「…いや、ちゃんと考えてくれてたんだと思って」
「当たり前だろ。あの中村にバイトすすめて放り出すわけないだろ」
そう言ってプンプン起こり出す先輩に思わず笑ってしまった。
「正直心配だったんですよ。許したは良いものの、本当に緋桜にバイトなんて出来るのかなって。でもあの様子なら大丈夫そうだ」
そう言って俺は緋桜が消えていった方を見る。
「お前さぁ、過保護過ぎ。中村だってかなり変わってきてるだろ?」
先輩は呆れたようにため息混じりに言う。
「それは分かってるんですけどね……前の緋桜を見てたらどうしても」
ちょっと前までの緋桜は危うかった。
それを見てるから、どうしても大丈夫かと心配になってしまう。
「……まぁ、それは分からないでもないけどな」
そう言って先輩は肩を竦めた。
「ところで、叔父さんには緋桜の事どこまで話してるんですか?」
「ん?極度の人見知りで人付き合いが苦手って言ってあるだけ」
『細かい事は言ってないよ』と先輩は言う。
「でもさっきの中村の様子を見て叔父さんもどんななのかは察しただろうし、それなりに対応してくれるだろ」
そう言って先輩は店の奥に視線を向ける。
俺もそれにつられて店の奥を見た。
まぁ、まだ心配ではあるけど、緋桜がここで頑張れるって言うならそれで良い。
あとは緋桜次第だな。
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