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第337話 初出勤
俺は今日、ずっと緊張していた。
「緋桜、今日だけ一緒に行こうか?」
秋哉にそう言われて、俺は首を振る。
「………大丈夫、一人で行ける」
「……とても大丈夫そうに見えないんだけど」
そう言って秋哉は心配そうに覗き込んできた。
高橋さんの店に行ってから2日が経った。
高橋さんと先輩と秋哉と俺の四人で話し合った結果ノワールで働かせて貰うことになったけど、俺がこんなだからいきなり日数入るのは無理だろうってことで、慣れる為に取り敢えず週に1日だけ入る事になった。
そして今日が俺の初出勤だ。
「秋哉、お前がここで着いてったら中村がバイトする意味が無くなるだろ」
佐倉先輩が秋哉にそう言うと、秋哉は少しむくれた顔をした。
「中村くん、今日から一真さんの所でバイトなんだってね!頑張ってね!!」
宮藤先輩はそんなやり取りをしてる秋哉と佐倉先輩には目もくれず俺の所に来て、そう言って俺の手を握ると、それをブンブンと振る。
「一真さんのお店はあまりお客さんが来ないから、中村くんにはぴったりだと思うよ」
そう言って日向先輩がニコッと笑う。
「ちょっと待て!朱春、それ叔父さんに言うなよ、本気で凹むやつだから!」
と秋哉の相手をしてた佐倉先輩からツッコミが入る。
「何で?落ち着いてていい店ってことだよ?」
日向先輩はきょとんとしながらそう言った。
「いや、全然そんな風には聞こえなかったから!」
そう言う佐倉先輩に、俺も思わず同意してしまった。
「……って中村、そろそろ行かないと駄目なんじゃないか?」
「え?」
佐倉先輩と日向先輩のやり取りに見入ってしまった俺は、佐倉先輩のその言葉に時計を見た。
俺がノワールで働くのは、4時から7時まで。
学校が終わってから閉店までの3時間。
学校からは歩いて15分くらいだけど、もう既に3時半を過ぎていた。
て言うよりは、かなりギリギリだ。
「っ!すいません、もう行きます」
そう言って俺は慌てて生徒会室を出た。
学校から走って何とか時間の10分前に着いた。
俺は走って乱れた呼吸を整える。
確か高橋さんが『裏口から入って』と言ってた。
それを思い出して俺は店の裏に回った。
………裏口ってここだよね?
店の裏に回ると、裏口らしい扉がある。
俺はその扉の前で深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
2、3回深呼吸をしてから意を決して扉を開けようとすると、俺が開ける前にカチャっと音がしてその扉が開いた。
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