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第345話 ちょっとした変化

(秋哉side) 緋桜がノワールでバイトを始めて1ヶ月が経った。 って言っても週1しか入ってないから、まともに働いたのはまだ4~5回程度だけど。 接客はまだ慣れないみたいで、毎回疲れて帰ってくる。 それでもバイト自体は楽しいみたいだ。 それに緋桜の中で少しだけ変化があった。 それは高橋さんにコーヒーの淹れ方を習うこと。 バイト初日の終わりに高橋さんがコーヒーを淹れてる姿を見て興味を持ったみたいだ。 バイトの日はもちろん、他に週2日くらい閉店後に高橋さんのところに行ってコーヒーの淹れ方を教えてもらってる。 今日も高橋さんにコーヒーの淹れ方を教えてもらう日で、俺は緋桜に付き合って一緒にノワールまで来ていた。 送迎+試飲係ってとこかな。 緋桜は今、コーヒーを淹れながら唸っている。 俺はその様子をカウンターに座って眺めていた。 「……秋哉、これ」 緋桜は淹れたばかりのコーヒーを少し遠慮がちに俺の前に置く。俺は一口それを飲んだ。 緋桜はその様子を固唾を飲みながら見ている。 「…………どう?」 緋桜はそう不安そうに聞いてくる。 緋桜の淹れるコーヒーは美味しいと思う。 むしろ普通の人が淹れるより断然美味しい。 でも、高橋さんのコーヒーと比べるとちょっと…… 「美味しいんだけどね………」 そう言うと、緋桜は項垂れてしまう。 「……同じように淹れてるのに、なんで上手くいかないんだろう」 そう言って緋桜は『ムー』とむくれる。 そんな緋桜を見て、俺は思わず笑ってしまう。 「そんな焦らなくても緋桜ならすぐに上手くなるよ」 そう言って緋桜の頭を撫でた。

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