350 / 452
第346話
(秋哉side)
「どれどれ?」
『何が違うんだろう?』と緋桜が悩んでると、その後ろから明日の仕込みを終えた高橋さんがコーヒーの入ったカップに手を伸ばす。
それを一口飲んで『うーん』と唸る。
「…蒸らしが足りないのかも」
「蒸らし?」
そう言いながら緋桜は首を傾げる。
「最初に蒸らすでしょ?その蒸らし時間が短いのかもね」
「でも、言われた通りにやりましたけど……」
「その時によって時間を変えるんだよ」
「……難しいです」
そう言って緋桜はしょんぼりしてしまった。
コーヒーを淹れるだけでも奥が深いらしい。
その思いながら俺は緋桜の淹れたコーヒーを飲む。
「これはこれで美味しいと思うんだけどな」
そう言うと、緋桜は複雑そうな顔で見てくる。
緋桜の中では納得がいってないらしい。
まぁ緋桜の目指す味が高橋さんの淹れたコーヒーだから納得出来ないのは分かるけど。
「こればかりは自分で感覚を掴まないと難しいかもね。何回も試行錯誤するしかないよ」
そう言って高橋さんが笑う。
「緋桜くんは飲み込みは早いから、コツを掴めばすぐに出来ると思うよ。
さぁ!もう遅いし、今日はここまでにしといたら?」
高橋さんにそう言われて、緋桜は頷いた。
緋桜は使っていた器具を片付けて、俺はその間に佐々木を呼ぶ。
その時、ふと視線を感じた。
見てみると青木がいた。
「……?」
そういえば、ここに来るときはいつも居るような気がする。
それも接触してくる訳じゃなくて、離れた場所から見てることが多い。
緋桜も青木のことはまだ慣れないって言ってたし、ちょっと注意してた方がいいか。
「秋哉、お待たせ」
そんな事を考えていると、片付けを終えた緋桜がそう言って駆け寄ってくる。
でも今は、緋桜が楽しそうだからそれでいいか。
「帰ろうか」
そう言うと、緋桜はニコッと微笑んで頷いた。
ともだちにシェアしよう!