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第350話
営業時間が終わって店内の片付けが済むと、俺はコーヒーを淹れる練習を始めた。
あの時の事、結局青木さんにちゃんとお礼出来てない。
でも青木さんを前にすると、言葉が出てこなくなる。
どうしたらちゃんとお礼出来るんだろう。
俺は、コーヒーを淹れながらそんな事を考えてた。
「何か悩み事?」
高橋さんにそう聞いてくる。
俺は青木さんの事を話した。
「だったら、それが良いんじゃない?」
そう言って高橋さんは俺の淹れたコーヒーを指差す。
「言葉が難しいなら、物で伝えたら良いと思うよ」
……物で?
「…いや、でも…俺が淹れたコーヒーなんて……」
「緋桜くんのコーヒーは美味しいから大丈夫」
そう言って高橋さんはニコッと笑う。
俺が淹れたコーヒー。
秋哉に飲んで貰うのも緊張するのに、他の人になんて……
でも、他にお礼する方法がない。
そう思って、俺はカップに入ったコーヒーを眺める。
「……飲んで、くれるかな?」
「大丈夫だよ。あ、でも青木くんは甘い方が好きだからカフェオレとかにしても良いかもね」
カフェオレ……
「……淹れ方、教えてくれますか?」
俺がそう言うと、高橋さんはニコッと笑う。
「もちろん!」
俺は高橋さんに淹れ方を教えてもらって、なんとかカフェオレを淹れた。
初めて淹れたから、すごい不安だ。
「これも一緒に持っていくといいよ」
そう言って高橋さんが持ってきてくれたのは、お皿にのったチーズケーキ。
「…ありがとう、ございます」
俺は淹れたてのカフェオレとチーズケーキをトレイに乗せる。
「青木くんなら、まだスタッフルームに居ると思うから」
そう言われて、俺は頷く。
俺は緊張しながら、カフェオレとケーキの乗ったトレイをもってスタッフルームに向かった。
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