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第355話

あれから俺は、秋哉に言われた通り青木さんともう一度話をしようとした。 でも、なかなか青木さんに会えない。 正確には会えてはいるんだけど、話が出来なかった。 仕事中は話せないし、仕事が終わった後話そうと思っても、気付いた時には青木さんは既に帰った後だったり。 ………俺、避けられてるのかな? そう思うとため息が漏れる。 「青木くんとはまだ仲直り出来ない?」 営業中、何とかタイミングがないかと青木さんを目で追っていると、高橋さんにそう聞かれる。 「話しようとは思うんですけど、タイミングがなくて……なんか、避けられてるみたいです」 そう言って俺は視線を下に向ける。 「焦っちゃ駄目だよ」 そう言って高橋さんが俺の頭に手を置く。 「焦ったら、見えるものも見えないからね。ちゃんと話せば、青木くんも分かってくれるはずだから」 そう言って高橋さんはニコッと笑う。 「……はい」 そう言って俺は頷いた。 高橋さんとそんなやり取りをしていると入り口のドアベルが鳴る。 その瞬間、お客さんがザワついた。 ザワついてるのは主に女のお客さんで、俺は何だと思って店の入り口を見た。 入り口のところには秋哉と先輩たちがいて、俺はすぐに皆に駆け寄った。 「秋哉、先輩たちもどうしたんですか?」 「先輩たちが緋桜の働いてるとこ見たいって」 そう言って秋哉は肩をすくめる。 「頑張ってるみたいだな」 佐倉先輩がそう言ってニコッと笑う。 「中村くんそれ制服?カッコいいね」 と宮藤先輩が近寄ってくるけど、その手にはカメラがしっかり握られていて、写真を撮る気満々なんだと分かる。 「翠、そんなに詰め寄ったら中村くんが困っちゃうよ」 と日向先輩が宮藤先輩を俺から引き離す。 「……ごめん忙しそうなのに」 そう言って秋哉が困ったように笑う。 「大丈夫」 そう言って俺は首を振った。 「ほらほら、そんなところに固まってたら他のお客さんの邪魔だよ」 入り口付近でそんなやり取りをしていると、高橋さんに注意されてしまった。 「取り敢えず席に座りなさい」 高橋さんがそう言うと、佐倉先輩が『はーい』と言って皆を空いてる席に案内した。

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